2日に契約更改に臨み800万円ダウンの3100万円でサイン
「『お前何してるん』って思われているんじゃないですか」。福岡で出会った大切な盟友から、“無言のゲキ”を感じ取っていた。2025年、新天地での1年目のシーズンを終えた上茶谷大河投手。“節目”を迎えて口にしたのは、栗原陵矢内野手の存在だった。
右腕は2日、みずほPayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。「ダウンですよ、ダウン。当たり前です」。800万円減の3100万円で来季の契約にサインした。現役ドラフトでDeNAから移籍したが、2月には右肘のクリーニング手術を受けた。1軍では8試合の登板にとどまり、「1つ1つの球種の精度を上げないといけない」。真っすぐに結果を受け止めた29歳は来季、もう1度先発として競争に挑むつもりだ。
新たに加わったホークスでは、栗原を筆頭に上沢直之投手や今宮健太内野手、周東佑京内野手らと親交を深めた。名前を挙げればキリがない。かけがえのない出会いを福岡で果たし、チームメートを心から好きになった1年だった。“仲間”という面で、2025年はどんなシーズンだったのか。「めちゃくちゃ楽しかったですよ」――。偽りのない思いを打ち明けた。
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続きの内容は
横浜時代とホークスの人間関係で感じた“新しい感覚”とは
栗原陵矢の“無言の激”で上茶谷投手が痛感した「プロとの差」
上茶谷投手がホークスで新しく芽生えた「同級生との夢」
チームメートに愛された1年「すごく楽しかった」
「横浜にいた時は結構、『周りにどう思われるか』を気にしている選手が多かったんです。評価じゃないですけど、プロ1年目から自然とそういう空気だったので。でも、ホークスに来て、僕も最初は横浜の“そういう感じ”で入ってきたんですけど。本音の話ができる人ばかりでした。ありのままの人間関係を作ることができたし、みんなが気を遣わないから、それぞれの個性が出ていたと思いますね」
上茶谷のキャラクターにつられるように、ホークスで出会ったチームメートたちは自ら心を開いてくれた。当然「(横浜と)どっちが良いとかそういうことじゃないですよ」と強調する。「本音であるがゆえに、悪いこともあったかもしれないですしね。表裏一体だとは思うんですけど、僕にとっては新しい感覚だったので。人間関係はすごく楽しかったです」。明るい雰囲気はホークスの“伝統”でもある。新天地に来たはずが、そう感じさせないほどの空気を周囲が作ってくれた。
右腕は2月の右肘手術を経て、約4か月のリハビリ生活を送った。栗原がオープン戦で右脇腹を痛めてリハビリ組に合流したのは、3月の出来事。西武の甲斐野央投手からも「絶対に気が合う」と言われていたが、チームメートになる前は「会えば話す」程度の面識だったそうだ。同学年の“盟友”との出会い。1年を終えたタイミングで口にしたのは、心からの感謝と、“無言のゲキ”だった。
「クリは高卒、僕は大卒でプロに入ってきて4年の違いがあるんですけど、それ以上の差を感じました。侍ジャパンにも選ばれたり、成績を残す選手はこれだけ練習するんやなって。正直『これあかんわ』って、背中で見せられたのはクリでしたね。僕は最初、今までと同じ感じで過ごしていたんですけど、あいつは『お前何してんの』『全然練習せんやん』って感じていたと思いますよ」
シーズン終盤には1996年世代全員が1軍に
リハビリに励みながらも、リカバリーするだけではなく、必ずレベルアップした姿で1軍に復帰する。栗原の強烈な向上心に触れ、自分自身の現在地を思い知った。「僕らに何も言わないですよ? でも凄まじい努力をしているんやなっていうのは伝わってきますし、同じチームになれてすごく良い方向に働いたというか。大きな出会いでした。僕はめちゃめちゃ良かったなと思います」。心を許せるだけではなく、プロとして練習する大切さを痛感させられた。
待望の1軍初昇格を果たしたのは、8月26日だった。チーム内の1996年世代が全員1軍にいる状態となり「(伊藤)優輔ともそんな話はしていました」という。一方で「藤井(皓哉)とかマツ(松本裕樹)は何も言っていなかった。僕らはファームにいたからそういう気持ちになったけど、あいつらにとっては上にいるのが当たり前なんです。みんながそういう感覚になれたら」。自分自身のことを最優先しつつ、チームの勝敗を背負って“同級生”とグラウンドに立ちたい。ホークスに移籍して芽生えた新しい夢だ。
栗原とは「来年30歳になるとは思えないアホな会話しかしていないですよ。話していることに中身はないです」と笑い飛ばす。それも、多くを語り合う必要がないから。陰でどれほどの努力を重ねているのか、誰よりも深く知っているからだ。上茶谷大河の2026年。大好きな仲間たちのためにも、結果で応えたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)