藤原の「覚悟」に動いた心
高卒右腕の心意気を快く受け入れた。上沢直之投手のもとに1通のメールが届いた。送り主は、育成2年目右腕の藤原大翔投手。「2年目の藤原です。自主トレをお願いします」。面識はほとんどなかったが、19歳は球界を代表する右腕に弟子入りを直訴した。
藤原が行動を起こしたのには、明確な理由があった。「僕の課題は変化球なので、そこを学びたいです」。支配下登録をつかみ取るため、越えなければならない壁。それを乗り越えるための答えを上沢が持つ縦のカーブや落ちるボールに見出した。「どう使うのか、どういうタイミングで投げるのかなどを聞きたいです」。その言葉には、強い意志が込められていた。
なぜ上沢は、藤原の願いを受け入れたのか。その背景には、動画で見ただけで19歳の才能を瞬時に見抜いた“慧眼”と、若鷹の成長を願う指揮官の熱い思いがあった。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
・上沢がわずか数秒の動画で見抜いた藤原の「真の才能」とは
・斉藤監督が「成長」を確信した藤原の“勇気ある行動”の裏側
・来季支配下へ、藤原がオフに自らに課した「具体的な課題」
19歳の熱意に応えた理由
上沢はほぼ面識のない後輩から連絡を受けた時の心境を「どういう練習してるか分からないだろうけど、大丈夫なのかなとは最初に思いました」と、正直に明かす。練習内容を伝え、改めて藤原の意思を確認した。それでも「お願いします」と食い下がってきた覚悟に、ベテラン右腕の心は動いた。
「本当にすごいピッチャーだなっていう印象しかないですね。僕が特に言うことはないんじゃないかというくらい。高卒2年目であんなにすごいボールを投げているので。教えられることがあるなら、協力したいなって思います」
実は、上沢は藤原の投球をほとんど見たことがなかったという。「動画で少し見たことあるかな、くらいです」。それでも、そのわずかな映像だけでポテンシャルの高さを見抜いていた。加えて「これからが本当に楽しみな投手」と期待を隠さない、未来のホークスを担うかもしれない若き才能に、自身の持つ経験と技術を注ぎ込むつもりだ。
斉藤和巳2軍監督も驚く積極性
この弟子入り志願を誰よりも喜んでいるのが、斉藤和巳3軍監督だ。昨季は4軍、今季は3軍で藤原をルーキーイヤーから指導をしてきた。
「藤原がそうやって積極的に自分から先輩にお願いしたことにびっくりしている。そういう気持ちがあるんだなって。『あぁ、なんか成長したな』って感じます」。勇気を持って大先輩の門を叩いたこと、そして自身の成長のために考え抜いて起こした行動に、確かな成長を感じ取っていた。
「学ぶところだらけなんやから。どういうところとかではなく、もう学べるものは全部学んできたらいい」と続ける斉藤3軍監督。育成という立場に甘んじることなく、自ら道を切り拓こうとする姿勢が何よりも嬉しかった。精神的な成長を目の当たりにすることで、さらに期待は高まっている。
誓う飛躍…来季の支配下へ決意
藤原は力強く語る。
「3年目なので、もうやるしかないです。オフシーズンに入ってからも、来年の支配下を目指してずっとやっているので。秋季練習が終わった今からも、自分で追い込んでいきます。春のキャンプでいいスタートが切れるように。2月1日からしっかりアピールできる状態を作ってきます」
ベテラン右腕と過ごす時間がさらなるポテンシャルを引き出すことだろう。一冬を超えてたくましくなった姿が今から楽しみだ。
(飯田航平 / Kohei Iida)