構想外、球団に「僕から言った」 早期発表の舞台裏…又吉克樹はホークスで「幸せだった」

トライアウトに参加した又吉克樹【写真:小林靖】
トライアウトに参加した又吉克樹【写真:小林靖】

9月30日に2軍の全日程が終了…2日後に発表された戦力構想外

 偽りのない思いをはっきりと伝えていた。「僕から言ったんです」。異例だった早期発表、そして戦力構想外の通告を受けた舞台裏――。又吉克樹投手が明かしたのは、球団との具体的なやり取りだった。

 2025年度の合同トライアウト「エイブル トライアウト2025~挑め、その先へ~」が12日、マツダスタジアムで行われた。ホークス勢では5選手が参加。又吉もその1人だった。先頭打者を詰まらせて三飛。広島・中村には死球を与えたが、続く西武・松原を二ゴロに仕留めた。「海外に行ってもいい。どこまでもしがみつきたい」。マツダスタジアムのスタンドから愛妻が見守る中での登板を終えた右腕は、あらためて現役続行への強い意欲を口にした。

 2021年に国内FA権を行使して中日からホークスに移籍した。4年契約の最終年となった今シーズンは1軍登板なし。来季の戦力構想から外れているとの通告を受けたのは、9月30日だった。ウエスタン・リーグの全日程が終了して、わずか2日後。今季のホークス選手では最初の発表になった。異例だったスピード発表には、又吉の強い希望が表れていた。

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続きの内容は

・愛妻に明かした「構想外の覚悟」妻の返答
・「こんなに曲がっているのか」敵が驚いた魔球の正体
・盟友の引退を前に右腕が語る「引き際の美学」

愛妻にも伝えていた「たぶん“そうだから”」

「僕が球団にお願いしたんです。『もしよかったら、早めに教えていただけませんか』と伝えたら、ありえないようなスピードで動いてもらったので。そういうところでも、ホークスにはすごく感謝したいです」

 2026年の戦力として自分は必要とされているのか、自ら球団に問いかけていた。来季に向かって動き出す秋。又吉にとっても早く答えを知りたかった中で、フロント側も迅速に対応してくれた。構想外という形にはなったが「4年間お世話になって感謝しかないし、わだかまりなんてあるわけない。結果を出せなかったのは自分なので。これだけの環境、舞台を用意し続けてくれて本当にありがたいですし、4年間幸せでした」。9月30日に発表されたことには、両者の思いが反映されていた。

 又吉のスマートフォンが鳴ったのは9月下旬。構想外を知らせるための着信だった。「球団に呼ばれたわ」。自宅で妻に伝えた。1軍登板なしに終わっただけに「『たぶん“そうだから”覚悟しておいて』って話はしていました」という。キャリアの岐路に立たされたが、どんな時も明るい又吉夫婦らしい。「こればかりはどうしようもないし、すぐに『次、次』って言っていました」。妻の言葉ですぐに前を向くことができた。

トライアウトを終えて一礼する又吉克樹【写真:小林靖】
トライアウトを終えて一礼する又吉克樹【写真:小林靖】

午前7時からトレーニング…厳しい練習を重ねた成果

 1か月半、鍛錬を積んでオファーを待った。タマスタ筑後に通い、午前7時からトレーニングを始める。「強迫観念じゃないですけど、練習しないといけないっていう気持ちもありつつ、『これで合っているのかな』って気持ちもありましたね」。これまでなら自然とチームのスケジュールに合わせた生活を送っていたが、己を突き動かしたのは現役続行への強い思いだけ。休もうと思えば、どこまででも休める日々でもあった。自分を奮い立たせながら、トライアウトという舞台を目指してきた。

 厳しい練習を重ねてきた成果は、しっかりとボールに表れていた。この日、広島の中村に与えた死球は内角のシュート。又吉を支えてきた右打者に対する得意球だ。「ベンチに下がりながら(中村選手と)話したんですけど『普通にボール球だと思ったんですけど、避けきれなかったです。こんなに曲がっているのかって』と言われました」。切れ味はまだまだ健在。ストライクゾーンを広く使ったピッチングには、右腕の持ち味が存分に詰まっていた。

 気心知れた仲間たちは、次々と去就が決まっていく。焦る気持ちを抱きつつも「どうしようもできない」と足元を見つめてきた。中でも中日時代の同僚、祖父江大輔投手と岡田俊哉投手が現役を引退。盟友の思いをリスペクトしつつも「引退って、いずれは必ず来ること。俺はまだ『もういいや』と思って決められないし、やっぱり最後までもがきたい」と決意を新たにしてきた。どこまでも泥臭く、ボロボロになるまで野球がしたい。それが又吉克樹の“引き際の美学”だ。

 登板直前、スタンドの男性ファンから「頑張れ!」と大きな声が飛んできた。「本当にダメだったら『休め』って言われると思うんですよね。そう言ってもらえるのは『まだお前ならできるだろ』っていう期待の裏返しだと思うので。頑張っていきたいです」。晴れ晴れとした表情で、そう語った。心から「やり切った」と思えるまで、絶対に諦めない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)