初めて経験するオフ…経験した“別れ”
「高校とは違って、野球が職業なので。危機感を持ってやらないといけない。これが続いたらと……」。2024年ドラフト1位でプロの世界に飛び込んで1年。18歳の村上泰斗投手は初めてのオフを経験している。
悔しさを味わった2025年シーズンだった。5月4日の火の国サラマンダーズとの4軍戦でプロ初登板を果たし、151キロをマーク。その後も3軍で経験を積んでいた中で、6月末に右肘と腰の炎症が見つかり、リハビリ組に合流した。最終盤に投球を再開するも、登板は無くシーズンを終えた。オフに突入すると右腕の危機感をさらに強くする出来事があった。
ホークスは今オフ、20人の選手に来季の契約を結ばないことを通達した。その中には3歳上の加藤晴空捕手もいた。「自分がバッテリーを組んだほとんどの試合が晴空さんとでした」。右も左も分からない18歳の1年目を支えてくれた先輩との突然の別れ。戦力外が告げられた日の朝、交わした会話があった――。
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続きの内容は
戦力外通告の朝、洗面台で語られた「最後の会話」
最後に先輩へ伝えられなかった「言葉の理由」
怪我をしない体へ。リハビリで得た「確かな成果」
「自分が晴空さんの戦力外を知ったのは、その日の朝でした。スーツで寮の洗面台にいて。そこで話して初めて知りました。『今からドームに行ってくる』と話をされて。心が痛いというか、まさか……という感じでした」
気さくで冗談も言ってくれる明るい先輩だった。「育成のドラ1でキャッチャーが高卒で入ってくるから……」。ドラフト直後に加藤からそんな話を聞き、「いや(戦力外は)ないでしょう」と思っていたという。しかし、その言葉はすぐに現実となってしまった。村上は静かに自らを見つめ直した。
「正直、シーズン中も他のドラ1の選手が試合に出ていて、自分はリハビリ期間だったので。悔しさや焦りはありました。でも『まだ来年がある、時間はまだある』と、どこかで甘えてしまった部分もあった気がして。でもこうして身近な方で(戦力外通告を)目の当たりにして、本当に危機感を感じました」
球団事務所から寮に戻ってきた加藤とは“最後の時間”を過ごした。「『お世話になりました』と挨拶だけでした。『また一緒に組みたかったです』とか、そういう言葉はかけられませんでした。簡単には言葉が出せないというか……」。右腕の胸には、寂しさとプロ野球の世界の厳しさが突き付けられていた。
取り組んだ“怪我をしない”フォーム作り
6月末からシーズン最終盤まで続いた長いリハビリ期間で、村上はフィジカル面の強化に注力。投球練習再開後は動作解析も行いながら、“怪我をしない”フォーム作りに取り組み、秋季練習ではその成果を実感している。
「投げていて腰に(ダメージが)きたり、内転筋が張ったりすることがシーズン中にあったので。それが少なくなるように、軸足の使い方やタメの作り方を考えて取り組んできました。シーズンで投げている時よりも腕の振りの感触も良く、投げ切れています」
来季に向けては悲壮な覚悟を滲ませた。「正直、自分にとって来年はチャンスではあるけど、ピンチだと思う。今度のドラフトで大卒の右ピッチャーが入団したら、自分と年が近くなりますし、高卒が入って後輩もできる。どんどん焦りが出てくると思うので」。プロ野球は入れ替わりが激しい厳しい世界。18歳の右腕にとって大きすぎる出来事だった。
(森大樹 / Daiki Mori)