
首脳陣がバッテリーを組ませたくなる“理由”
ホークスは阪神との日本シリーズを制し、5年ぶりの日本一を掴み取りました。今季、エースと同格の働きを見せ、最高勝率のタイトルを手にした大関友久投手が明かしたのは、バッテリーを組む嶺井博希捕手との“熱い議論”――。妥協なき議論の応酬の先にあった、知られざるバッテリーの真実に迫ります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
激闘を制して掴んだ日本一。日本シリーズでの登板機会はなかったものの、今季のリーグ連覇に大きく貢献したのが大関と嶺井のバッテリーだ。5月に入ってからコンビを組み出した2人だが、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチはその関係性を「必ずしも、ものすごくマッチングがいいわけじゃない」と表現する。言葉の裏には、勝利のために互いの意見を“本気で”ぶつけ合ってきた、知られざる物語があった。
大関は嶺井との議論を「白熱というか、熱くなる瞬間はあると思うんです」と認める。シーズンを通してバッテリーの質を高めてきた2人。しかし、その過程では単なる信頼関係だけでは語れない、プロフェッショナル同士の真剣なぶつかり合いが存在した。なぜ首脳陣は、この2人のバッテリーを“組ませたくなる”のか――。核心に迫った。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
・大関と嶺井の「本気の議論」
・伴コーチが明かす、バッテリーの「意外な真実」
・首脳陣が二人に託した「特別な理由」
繰り返す対話…「これでOKにはならない」
「今年1年間を振り返って、ミーティングの質っていうのは上がっているんじゃないかなと思いますね。でも、何が正解かは分からないので。いろんなやり方を繰り返して、そのレベルを上げてきました。こうやって本気でやる中で、それがいいか悪いかは置いといて、熱くなったりする部分はあると思います」
こう語る大関は、嶺井との対話に確かな手応えを感じていた。それは決して現状に満足することがない2人だからこそ、感じるものがあるからだった。「これでOKっていう風にはならないと思うんです。いろんなやり方をしながら、繰り返して」。より良い形を常に模索する姿勢がバッテリーの根幹にはある。
登板日が決まると、その数日前から2人の対話は静かに始まる。「2、3日前に『相手のバッターのこういうところを見ておこうね』とか、『次はこういう攻め方ができたらいいかもしれないですね』とか。2人でそういう話はしていました」。早くからイメージを共有し、互いの思考を擦り合わせる。その準備が、マウンド上での迷いを消し去るための最初のステップだ。大関はさらに続ける。
「準備してないことをいきなりやろうとしたら、難しいと思うんです。だけど、過去に何回も組んできて『こういう感じで行こうか』っていうパターンがあったり、『試合の前にこうなったらこうしましょう』といった準備をしていることも大事だと思います。うまくいかなかった時でも変わらずに準備できてると、それに似たようなことが起きた時にも方向性が定まりやすいので」
伴コーチが見た2人の掛け合い
しかし、伴コーチはそんな2人の関係性を「必ずしも、ものすごくマッチングがいいわけではなんですよ」と、意外な言葉で表現した。これほど周到に準備を重ねていながら、なぜ最高の相性ではないというのか。その言葉の真意が、このバッテリーの本質を物語っていた。
「彼らはバッテリーミーティングの中から、ずっと“議論”していますから。もう事前から。ある程度前提を決めた上で試合中もずっと対話をして、ちょっとずつ変えている。お互いに加減がなく、でもお互いを尊重しあいながら意見を言う。『僕はこう思う』って意見を出した上で、どうするって決めていくんですよ。これが“見事”なんですよね」
伴コーチは、そのやり取りにこそ2人の凄みがあると語る。「大関は『同調されるというよりも、違う意見が出ると選択肢が増えるから嬉しい』って言うんです。だから、思ったことをちゃんと伝え合う。その中でテーブルに出した上でどうするっていう決断を下してきている2人なんです」。
大関と嶺井には、メンタル面への探求心が強いという共通点がある。伴コーチは嶺井を「好奇心の塊」と評し、大関もまたスポーツ心理学を熱心に学んでいる。CSファイナルステージでは悔しい思いをしたが、2人の姿勢が変わることはなかった。
「置かれた状況が変わっても、自分の考え方や、やるべきことを変えない2人。監督たちがこの2人を組ませる理由はそこにあると思うんですよね」。伴コーチは首脳陣の意図を代弁する。
プロフェッショナルとして互いの意見をぶつけ合うことで、より精度の高い結論を導き出す。日本一の歓喜の裏にあった“知的な衝突”。それこそが、レギュラーシーズンで2人が積み上げてきた“12勝”に込められた美しい絆の形だった。
(飯田航平 / Kohei Iida)