10月23日に迫ったプロ野球ドラフト会議。2年連続のリーグ優勝を達成したソフトバンクは、どのような準備を進めているのか。「鷹フル」が行った永井智浩編成育成本部長への独占インタビュー。第3回では、ドラフト会議当日までに行われる準備プロセスの全容を語ってもらった。
「例年と同じぐらいの選手はリストアップしているんですけど、どの辺りでうちがリストアップしている選手が消えていくのかで、ドラフトで取れる人数は変わるので。5人くらい取りたいなと思っていても、リストが空になったら終わりです」
ホークスが当日に向けて用意する指名候補リストは、40人ほどだという。その裏には、連日の会議による絞り込みと、あらゆる事態を想定した膨大なシミュレーションという準備過程が隠されていた。
「初めは(候補が)たくさんいます。当然、枠がある世界なので。(チームから)抜けていく選手や置いておきたい選手と比較しながら、リストをだんだんと削っていって。スリムにしながらやっていきます」と永井本部長は説明する。
当初のリストには100人以上の選手名が並ぶ。そこから段階的に選手を絞り込んでいく作業が重ねられる。チームにとって必要なのはどの選手か。現状の編成を踏まえたうえで、能力だけではなく、将来性や内面も鑑みて議論が交わされていく。当然、現有戦力と照らし合わせ、ドラフトで獲得すべきか、既存戦力に期待すべきかも絞り込みの一因になる。
「リストの上から単純に(指名して)いくと、ピッチャー、ピッチャー、ピッチャーになってしまう可能性があるので。全体のリストやポジション別のリストを分けながら、細かくやっています」。細分化された候補リストも作成し、準備は進められる。
ドラフト会議の1週間ほど前からスカウト陣が集結し、連日の会議で候補選手を絞り込んでいく。ある程度の順位付けが完了すると、今度は当日を想定した指名選手のシミュレーションへと移行していく。
各球団の1位指名が誰になるかを想定し、複数のパターンを作っていく。その動向次第で、2位以降の戦略は変わる。2位指名の行方によっても、また展開は変化する。それ以降も同様で、指名順が進めば進むほど、その数は膨れ上がっていく。
「(会議当日の)テーブルで慌てないように、それを全て想定します。えげつない数のシミュレーションになっていきます。ドラフトは動くものなので。他の11球団もいるし、思い描いたようにはいかないもの。シミュレーションで言うと、もう100パターン以上は作るんじゃないですか。途方もない数です」
ありとあらゆる状況を想定し、ドラフト会議当日に臨む。いかなる事態となってもいいように準備をしても、なかなか思惑通りに進まないのがドラフトというものだという。
「これくらいのシミュレーションでいくと成功だなっていうパターンがいくつかできて、その中に落ち着くと『ああ、いいドラフトで終わったな』って思います」。村上泰斗投手、庄子雄大内野手らを指名した昨年はある程度、想定通りの展開になったという。
ドラフト戦略でもう1つの注目点は、1位指名を公表するか否かだ。今年はすでに広島が創価大の立石正広内野手の公表に踏み切っている。ホークスはどうするのか。
「(1位が)決まって、公表することが得策ということであればするでしょうね。そこはもう戦略です。黙っておいた方がいいなっていうときはそうしますし。公表したら、もしかするとご利益があるかもねっていう時は公表します」
ホークスのドラフト戦略は、即戦力よりも数年先を見据えた指名を重視する。ルーキーの獲得だけでなく、チーム編成と育成も管轄する永井本部長は考え方をこう明かす。
「なぜドラフトを当てたいかって、チームが勝ってもらいたいから。何を言われようが、チームが勝ったところが正解だと思っています。ドラフトの結果がすぐに出ようが出まいが、プロ野球は勝つためにいろんな部門の人たちが頑張っている。みんな、1軍が勝つためにやっているので。(優勝したことで)そこは報われるんじゃないですかね」
リーグ連覇で証明された充実の戦力を持つからこそ、将来を見据えた指名ができる。100を超えるシミュレーション、40人を超えるリスト、そして球団全体で共有される長期的ビジョン――。ホークスのドラフト戦略の裏には、常勝軍団ならではの哲学が息づいている。