野村勇を変えた努力…過去3年は「何もなかった」 必ず駆け込む部屋、毎日した“宣言”

先制弾を放った野村勇【写真:加治屋友輝】
先制弾を放った野村勇【写真:加治屋友輝】

田中正義から先制ソロ「高めの真っすぐだけ」

 プロでの3年間、打撃面で積み上げてきたものは「何もなかった」。負けられない短期決戦で、かつての弱気な姿はもうどこにもない。自分のルーティンがぎゅっと詰まった弾丸ライナーだった。ついに開幕したクライマックスシリーズのファイナルステージ。野村勇内野手が、会心の一撃で貴重な1点をもたらした。

 15日、みずほPayPayドームで行われた日本ハムとの一戦をサヨナラ勝ちで制したホークス。リバン・モイネロ投手と相手先発・達の投手戦が進んでいく中、試合を動かしたのは野村の一振りだった。7回無死、田中正の152キロを捉えた打球は瞬く間に左中間テラスに着弾。「低めはなんとしても振らないように。そこがストライクだとしても『仕方ないかな』と思いながら、高めの真っすぐだけ狙っていきました」と感触を振り返った。

 小久保裕紀監督も「野村のホームランでいけるかと思ったんですけどね」と先制弾を評価した。レギュラーシーズンではキャリアハイの12本塁打を放ち、リーグ連覇に貢献。一方で122三振を喫したが、確実性という最大の課題にも逃げずに向き合ってきた。積み上げてきたルーティンを、野村本人の言葉から紐解いていく。試合前の練習を終えると、背番号99が足を運ぶのは「資料室」と呼ばれる場所だ。

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続きの内容は

・試合前に必ず訪れる「資料室」での驚きの行動とは
・メンタルコーチと見つけた「打てない」を克服した秘訣
・アナリストが明かす、先制弾の「驚異の打球角度」

試合前に必ず向かう「資料室」、アナリストに宣言するのは

 アナリストチームと一緒に、映像に目を凝らすのが日課だ。意見を擦り合わせながら、相手投手に対するイメージを膨らませる。考えを整理すると、最後はサポートしてくれるスタッフたちに「きょうの打席は、これでいきます!」と方向性を宣言してから退室するのがルーティンだ。先制弾を放ったこの日の日本ハム戦も「自分が打てるところは決まっているので。いつも通り、ここを狙います」と告げ、ゲームへと入っていった。

 オフから始めたウエートトレーニングは、シーズン中も欠かさずに継続してきた。最新鋭の打撃マシン「トラジェクト・アーク」と向き合い、打ち込んできた時間は誰よりも長い。それはスタッフが残してきた記録が証明している。打撃面の“開眼”は、積み重ねてきた努力があるからこそ。苦しんできた過去3年は「何もなかったんです」。反省をこめながら振り返る。

「バッティングに関しては本当、『こうしよう』っていうのが何もなかったんですよね。どういう時に自分の調子がいいのかがわからなくて、すぐに打てなくなっていました。それが『こうしているから、今はいい』って。伴(元裕メンタルパフォーマンスコーチ)さんとも話をしてわかり始めた。『打席内ではこれに集中した方がいい』『自分のフォームに気を取られている時は全然良くない』とか。そういうのがわかってきたから『絶対にこう』っていうのが何個かできた感じです」

伴元裕メンタルパフォーマンスコーチとハイタッチする野村勇【写真:加治屋友輝】
伴元裕メンタルパフォーマンスコーチとハイタッチする野村勇【写真:加治屋友輝】

打球角度は21度…アナリストも驚愕の弾丸ライナー

 小久保監督が「オリンピック選手級」と表現するほど、秘めるポテンシャルは大きい。しかし感覚を言語化して、取り組みを継続させるのは、なかなかうまくいかなかった。明確な道筋が見つかったのは、毎日同じルーティンを繰り返してきたから。「今は『こうしよう』っていうのがあるから、打てなくても振り返ることができます」。シーズン中、無安打が続いたのは最長でも3試合。「反省して次の日を迎えられるので、ドツボにハマらない感じはあります」と胸を張った。

「4三振したりして、訳がわからなかったら『うわ』ってなりますけど。今のは仕方ないなって打席も自分の中でわかりますし。『ここは打てる球なかった』とか『狙っている球じゃなかった』とか、そういうことを考えていれば落ち込むこともなかったですね。(大切にしているのは)自分の中で、決めたことができていたかどうかだとは思います」

 どうしても勝ちたかったCS初戦。試合前には盛大なセレモニーが行われ、独特な雰囲気を味わった。「練習までは全然、なんとも思っていなかったんですけど。それくらいの時間から緊張し始めました」。それでもプレーボール以降は、地に足をつけてグラウンドに立っていた。“いつも通り”を心がけていた先制ソロについて、松葉真平1軍アナリストは「打球角度が21度だったので、かなり弾丸ライナーでしたね」と驚きをこめながら明かした。

「誰が打つかまでは考えていなかったですけど、こういう試合はホームランで点が入りそうやなと思っていたので、興奮しましたね」。妥協することなく、求められる役割を必死にこなそうとしてきた。自分で決めたことは、継続する。努力を重ねてきたから、野村勇は今ここにいる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)