前日に1軍に合流したばかりで「6番・遊撃」でスタメン起用
「今日はちょっと違う緊張がありましたね」
劇的なサヨナラ勝ちの歓喜の輪の中で、今宮健太内野手は安堵の表情を浮かべていた。左ふくらはぎの怪我から1軍に復帰し、いきなりのスタメン出場。プレッシャーのかかる復帰戦を終えると、言葉にできないほどの緊張があったと心中を吐露した。
15日に行われた日本ハムとのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ初戦。宮崎で行われていたフェニックス・リーグでの調整を経て、前日にチームに合流したばかりの今宮は「6番・遊撃」でスタメンに名を連ね、フル出場した。
6回の第3打席で復帰初安打となる左翼への二塁打を放つと、同点で迎えた延長10回1死一、二塁では左前打でチャンスを拡大。続く山川穂高内野手が高いバウンドで三塁手の頭上を越えていくサヨナラ打を放ち、激戦に終止符を打った。「一番いいところで打ててよかった」。サヨナラにつながる一打に胸をなでおろした。
今宮が吐露した“違う緊張”の正体。それは、シーズンの大半を戦い抜いてきた仲間たちに代わり、大舞台のグラウンドに立つという重圧だった。試合当日に知ったスタメン起用への複雑な思いが隠されていた。
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続きの内容は
・「スタメンは無いと…」今宮が試合当日まで抱いていた思い
・「姿を見ると」今宮を奮い立たせた“盟友”の献身的な姿
・スタメンを知った瞬間に芽生えた「特別な感情」の正体とは
今宮自身にとってスタメン起用は“予想外”といえるものだった。「優勝した時も1軍にいなくて、ほぼ(野村)勇と(川瀬)晃が(遊撃を)守ってきた。頭から出るつもりでフェニックス・リーグでは出ていましたけど、そういった中だったからスタメンは無いだろう、と昨日まで思っていました」。
今季は度重なる怪我で離脱し、1軍に定着した2012年以降で2番目に少ない46試合の出場に終わった。今宮が不在の間、遊撃は主に川瀬晃内野手と野村勇内野手が守り、チームは2年連続のリーグ優勝を果たした。長らくチームを引っ張ってきたチームリーダーとはいえ、今年の優勝は、2人の後輩の働きが大きかったと理解している。
フェニックス・リーグではあらゆる起用法を想定して準備を重ねてきた
だからこそ、優勝の先にあるポストシーズンでも、2人のどちらかが遊撃を守るだろう、と思っていた。実戦機会を積むために出場を重ねてきたフェニックス・リーグでは「いきなり『健太行くぞ』と言われても動けるように、どこでも行けるようにするというのはずっと意識してやっていました」。スタメンだけでなく、あらゆる起用法を想定して準備を重ねてきた。
先発出場を知ったのは試合前の練習時。白板の遊撃の位置に記された「6」の文字を目にしたときだった。驚きとともに沸々と湧いてきた感情があった。
「2人が頑張ってきて、ここでスタメン。今まで頑張ってきた人たち、結果を残してきた人たちがいる中でスタメンに抜擢された。しっかりしないといけないし、勝利に貢献しないといけないって思いました」。野村勇は二塁手で出場し、川瀬はベンチスタートとなった。2人に代わって託された遊撃のポジション。百戦錬磨のベテランとはいえ、いつも以上の責任の重さを感じざるを得なかった。
試合中も、何度もその思いを強くさせられた。イニングが終わるたびに川瀬がベンチから飛び出してきて、最前列でチームメートを出迎えていた。悔しくないはずがない。その思いが痛いほど理解できるからこそ、チームのために全力を注ぐ姿に奮い立たされた。「そういう姿を見るとね。だからこそ、今日はホッとしたといえばホッとしました」。代わってフィールドに立つ身として、結果で応えるしかなかった。
復帰初戦で2本の安打を放ち、遊撃の位置を守りきった。「まだ1試合しか終わっていないので。どんな形であれ、どうやってつなげていくのかってことだけ。なんでもいいと思っているので。残り試合も数えるくらいしかないので。そこはもう思い切っていくしかない」。その手に掴みたいのは日本一の栄冠だけ。背負うものの大きさも力に変え、今宮は身を粉にしてポストシーズンを戦っていく。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)