「心的に疲れたシーズン」 2度と味わいたくない悔しさ…緒方理貢が胸に刻んだ“10日間”

三盗を決めた緒方理貢【写真:古川剛伊】
三盗を決めた緒方理貢【写真:古川剛伊】

「1軍に来て2年連続でリーグ優勝できたのはよかった」

 支配下登録されて2年目、“10日間”の悔しさが胸に深く刻まれた。「数字的には全然満足していないですけど、1軍に来て2年連続でリーグ優勝できたのは嬉しかったです」。緒方理貢外野手は、汗を拭いながら2025年のレギュラーシーズンを振り返る。重圧を物語っていたのは「疲れました」という言葉だ。

 今季は101試合に出場して打率.216、16安打、8盗塁。2024年よりもグラウンドに立つ時間は長くなり、13試合でスタメン出場も果たした。「試合終盤の任されたところで結果を出そうと思っていた。去年と違うことをやろう、とかは思っていなかったですね」。主な出番は守備や代走。冷静なプレーを繰り返し、チームに貴重な1点をもたらしてきた。

 今季がプロ5年目だが、昨年3月に支配下登録を勝ち取ったばかり。1軍で過ごしたのは“2年目”というシーズンだった。自分自身の足跡を振り返ると「今年は疲れました」と言う。1人の選手として、確実にたのもしくなっているからこそ抱く思いだった。 

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続きの内容は

・緒方選手が語る、二軍での「10日間」の真実
・小久保監督が明かした、緒方選手への評価とは
・頭から飛び込んだ、あのヘッドスライディングの真意

借金7まで膨らんだ春先…緒方が語っていた胸中は?

「去年よりも今年の方が長く感じましたね。心的に、疲れたシーズンではありました。去年は何もわからなかったし、目の前の試合に必死でした。でも今年は下から順位も上がっていって、勝ったり負けたりもした。圧倒的な優勝ではなかったし、いい緊張感の中で日々、戦えたのかなと思います」

 守備と走塁から掴んできた出場機会。ビッグプレーというよりも、首脳陣は「失敗しない」ことを期待して緒方を送り出している。必要なのは冷静な状況判断。常に重圧を感じながらグラウンドに立ってきたからこそ「疲れました」というのは率直な思いだった。「それが求められていることなので。そういう意味では、貢献できた部分はあったのかなと思います」と胸を撫で下ろした。

 柳田悠岐外野手、近藤健介外野手ら主力の離脱が相次ぎ、春先は最大で借金7まで膨らんだ。1軍の一員として緒方は「チームのことをどうこうはあまり考えていなかったです。とにかく試合に出たらいい結果を残すことだけを考えていました」と目の前のプレーに集中していた。日本ハムと何度も演じた首位攻防戦。「周りから見たら大事かもしれないですけど、どの試合でもやることは同じ。ワンプレーをしっかりやろうと思って戦っていました」。そう話す表情は、充実感にも満ちている。

8月15日のロッテ戦で内野安打で出塁した緒方理貢【写真:古川剛伊】
8月15日のロッテ戦で内野安打で出塁した緒方理貢【写真:古川剛伊】

8月5日には2軍降格…小久保監督も「『1軍慣れが見える』と」

 2度と味わいたくない悔しさも経験した。8月5日には登録抹消。昨年も含めて初の再調整となり、小久保裕紀監督は「コーチから『1軍慣れが見える』という話もあったので」と理由を明かしていた。15日に昇格を勝ち取ったが、あらためて2軍の“10日間”はどんな期間だったのか。

「自分がどうこうというよりも、評価は周りが決めること。落ちてもやることは同じだと思っていたので。1軍のことを考えながらやっていたのはありました」

 再び1軍に昇格して以降、首脳陣からも「明らかに変わった」という声が聞こえてきた。それも「『変わった』と言われること自体が、あまり良くないことじゃないですか。最初からそう思わせないように、日々やっていかないといけないです」と言い聞かせる。苦い感情を抱くことも、プロとして成長を遂げている証。「初めて落ちた時、やっぱり悔しかったので。この気持ちは大切にしていかないといけないです」と強調した。

 8月15日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)では、7回に代打で登場。一塁に頭から突っ込んでセーフを勝ち取った。「ヘッドスライディングしましたけど、もし(2軍に)落ちていなくてもあの打球なら僕は頭から行っていたと思いますし。自分の中では『1軍に上がったから』だとか、そういうふうには思っていないです」。どんな時でも1球に対して執念を見せてきたつもり。「自分自身がしっかりとやって結果を出すことが一番です」と話す言葉に、深みと重みが出てきた。

 痛めた左手の親指について「(今も)大丈夫じゃないですよ」と言うが、その表情からは強い覚悟が伝わってくる。チームメートたちと日本一を勝ち取るまで、緒方理貢は突き進む。

(竹村岳 / Gaku Takemura)