柳町達を”開眼”させた近藤健介の助言 怖さよりも優った感情「余計に試したくなる」

柳町達【写真:古川剛伊】
柳町達【写真:古川剛伊】

進化を信じて掴んだ最高出塁率

 変化を受け入れた先に、初の“勲章”があった。6年目の今季は出塁率.384を記録し、自身初となる最高出塁率のタイトルを獲得した柳町達外野手。安定したパフォーマンスの要因には、シーズンを通して継続してきたトレーニングの成果があった。

「一気に体重が落ちたりすることがなくなって、疲れが出てきてもパフォーマンスが落ちなくなったと思います。バット軌道がブレることも少なくなりましたね」と柳町は語る。昨年まではシーズン終盤に疲労から成績が落ち込むことがあったが、地道なトレーニングの積み重ねが長いシーズンを戦い抜くための土台を築き上げた。

 だが、結果を残し続けてタイトルを獲得するまでに至ったのは、フィジカル面の強化だけが理由ではない。球界屈指のヒットメーカーからの助言を、日々自身の打撃に取り入れてきた。“変化”を受け入れる決断を下した背番号32が、今シーズンを振り返る。

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続きの内容は

• 近藤が柳町に授けた「体の使い方」とは
• 好調時でも変化を恐れぬ「探究心」の源
• 日本一へ向けた柳町の「覚悟と決意」

近藤からの助言…「今考えてみれば」

「今考えてみれば、変化に向き合って取り組めました。日々レベルアップするために1つ1つ成長していったことが、今の自分に繋がっていると思います」

 柳町に変化のきっかけを与えたのが、昨季に最高出塁率のタイトルを獲得した近藤健介外野手だ。柳町は近藤からのアドバイスについて「的確というか、迷っている時に色々教えてくれる」と、絶大な信頼感を寄せる。数ある助言の中で「一番効果があった」と断言するのが、体の使い方に関するアドバイスだ。

「今もずっと意識しながらやっているのが、足を使って打つというか、骨盤が回旋する力を使ってヘッドに威力を伝えることです。バットのスピードが乗った状態でボールを捉えなきゃいけないので。近藤さんに色々と聞いたお陰でバットの軌道も安定してきましたし、去年から飛距離がアップしたのも体の使い方を教えてもらえたところが一番大きかったと思います」

好調時にも恐れなかった進化

 それでもシーズン中にアドバイスを実践することは容易ではなかったはずだ。6月には月間打率.349をマーク。不調時ならまだしも、好調時に助言を取り入れれば、逆に調子を崩すリスクもある。新しいことを試すことに怖さはなかったのか。その問いに、柳町は迷いなくこう答える。

「そこまで恐怖心はなかったです。練習でも試しながらで、すごくいい感覚があったので。なので、余計に試したくなりました」。失敗を恐れず、自身の進化を信じ続けた。その期待感が柳町の成長を加速させた。

 もちろん、近藤の感覚を自身に落とし込む作業は簡単ではない。「自分の体の動かし方と、やっぱり近藤さんの動かし方があるので。そういうところで感覚の違いだったりはあります。そこを自分で噛み砕きながらやってきました」。近藤が伝えたい本質を理解することで、その壁を乗り越えてきた。

「怖さよりも『また新たな自分が見つかるかもしれない』という楽しみの方が大きかった」。そう語る言葉には、現状維持を良しとしない探究心が伺える。1つ1つの変化を楽しみながら自分の力に変えてきた積み重ねが、最高出塁率という輝かしいタイトルに繋がった。

 15日からはCSファイナルステージ、そして日本シリーズと、いよいよ頂点をかけた戦いが始まる。「ここからはもう個人成績は関係なく、チームの勝利がすべてです。自分が今できることをしっかり判断しながら、役割をしっかり考えて。それを実行できれば、自ずといい結果になると思います」。そう意気込みを語る28歳の表情には、凛々しさの中に確かな自信が満ちていた。

(飯田航平 / Kohei Iida)