川瀬晃がベンチ裏で準備しないわけ 特任記者が探った“裏側”…体現した指揮官の「ポリシー」

むなかったん・あらたが迫る川瀬のすごみ

 鷹フル特任記者、むなかったんのあらたです! 第4回となる記事のテーマは「川瀬晃選手の準備力と試合を読む力」についてです。パ・リーグ2連覇を果たしたチームの中でも、際立った存在感を示した28歳。5月2日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)で放ったサヨナラ打は、小久保裕紀監督がターニングポイントに挙げるほどでした。10年目の今季、特任記者の目から見た成長とは――。

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「準備は失敗しないので」

 大激戦のパ・リーグを制し、見事に連覇を達成した小久保ホークス。その中で、今シーズンも開幕から様々なケースで起用をされ続けたオールラウンドプレーヤーこそ、川瀬晃だ。今回は「準備」にかける強い思いと「試合を読む力」について迫った。

 今シーズンは102試合に出場し、そのうち48試合でスタメンに名を連ねた。打順で見ると1、2、6、7、9番で起用され、守っても内野の全ポジションを守った(途中出場を含む)。途中出場の54試合に目を移すと、その起用法は代打で14試合、代走11試合、守備固めは29試合。この数字からも分かる通り、幅広い起用に応え、リーグ連覇に貢献した。

 川瀬の最大の武器は「器用さ」だ。打順や試合状況に合わせた打撃、内野を全て守れる守備力、そして一瞬の隙も見逃さない走塁。どの監督でも欲しがるであろうオールラウンドプレーヤーである。

 途中出場といっても、チーム状況や試合展開、相手投手などによって様々な役割が求められる、とてつもなく難しい立場だ。このような役割を担う川瀬にとって最も難しく、また最も大切なことが「準備」なのだ。

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続きの内容は

・川瀬が語る「準備は失敗しない」真意
・小久保監督が明かす「阿吽の呼吸」秘話
・逆転劇を生んだ「必然のサヨナラ打」

「隙が生まれる」…スタメンのつもりで球場入り

 スタメンとして試合に出る場合、自分のタイミングでウォーミングアップを始め、試合前練習で汗を流し、試合に臨む。これが一般的な動きだが、途中出場の選手は自分が出るイニングがいつなのか、起用されるポジションや状況は、当然のことながら事前には分からない。それゆえ、試合が始まってもスタメンで出ている選手とのメンタルの保ち方は違ってくる。

 そんな中で、指揮官の「川瀬、頼んだ」という言葉を待ち続けながら、心も体も準備しておくことは困難が伴う。しかも、途中出場で川瀬が起用されるタイミングは、試合の中でも佳境を迎えた場面であることが多い。

 では、その状況下でもどうやっていい成績を残し続けてきたのか。この答えが「準備力」なのだ。

 川瀬はベンチスタートであっても、スタメンのつもりで球場に来て、スタメンの時と同じように初回から試合に出られる準備をしていると言う。なぜなら、この準備をしていないと心に隙が生まれて、途中から「行け!」と言われた時には体よりも心がついていかないのだ。頭の中では常に試合に出ている状態でベンチにいるのである。

「準備は失敗しない」――。川瀬がインタビュー中に一番力強く放った言葉だ。手を抜かない丁寧で堅実な姿勢こそ、最大の持ち味なのである。

イニング間やベンチの空きスペースでアップする理由

 そして、驚かされたのが「試合を読む力」だ。代打や守備固めの場合、出番の少し前に「準備してこい」と言われ、素振りやキャッチボールに向かうのが通常の動きである。しかし川瀬の場合、試合の流れや展開を自ら予測し、いくつもの選択肢を持って早め早めに準備をする。そのため、小久保監督から「準備してくれ」と言われたタイミングでは、すぐに戦える状態になっているのだ。

 しかもベンチ裏に下がって準備するのではない。小久保監督のポリシーとして、ベンチで仲間と一緒に戦いながら準備してほしいという考えがあるため、イニング間やベンチの空きスペースでウオームアップを行うのだ。

 最近では「川瀬、行け!」という言葉も使われなくなってきたという。川瀬がいつでもいけることを指揮官も分かっており、目が合うだけでベンチを飛び出すこともあるという。まさに“阿吽の呼吸”が大活躍を生んでいたのだ。

 実際、小久保監督は優勝後のインタビューで川瀬について「強みは目が合った時に行ける選手。いちいち準備してこいと言わなくてもいい選手であり、そういった控え選手がいるとチームは強い」と語っていた。

 4月を終えて最下位というまさかのスタートから、ホークスの潮目が変わった5月2日のロッテ戦。9回2死走者なしという絶体絶命の状況からの大逆転勝利を決めたサヨナラヒットは偶然ではなく、必然だった。リーグ連覇という悲願を達成したチームにとって、「準備を失敗しない男、川瀬晃」の存在は無くてはならないものだった。

【筆者プロフィール】

むなかったん あらた

1995年12月15日生まれ、宗像市出身。吉本興業所属の芸歴6年目。RKBのホークス応援団長を務め、2022年からRKBラジオでホークス戦全試合を解説。宗像市観光大使にも任命されており、2024年12月にコンビ名を「とらんじっと」から「むなかったん」に改名した。野球歴は小学2年から大学4年までの15年間で、福岡教育大3年時の2017年春季リーグでは外野手部門でベストナインに選出された。

(むなかったん・あらた)