指揮官が示した昇格への“条件”
「本当に怪我する前と同じような感じで振れるようになりました」
充実した表情でこう語ったのが、今季絶望とも言われた怪我から這い上がってきた正木智也外野手だ。4月18日の西武戦(ベルーナドーム)で空振りした際に左肩を亜脱臼。「左肩関節バンカート修復術」を受け、全治には5~6か月かかるとの見立てだった。9月9日に4軍戦で実戦復帰を果たすと、先頭打者本塁打を放ち、順調な回復をアピール。その後も2軍戦で満塁弾を含む2本塁打を放つなど、クライマックスシリーズ(CS)や日本シリーズを控える中で猛烈なアピールを続けている。
一方で、指揮官の受け止めは冷静そのものだ。小久保裕紀監督は「帰塁で頭から戻れないとか、守備でダイビングできないのであれば1軍には呼べないですよね。代打だけでもいた方がいいというくらい、状態が良ければ考えますけど」とコメント。動きに制限が残る現状で、正木に率直な思いを聞いた。バッティングへの恐怖心は消えたのか。そして、今シーズンの1軍昇格は実現するのか。怪我を乗り越えた先にあった、現状と心境とは――。
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続きの内容は
・正木選手が語る、怪我の「意外な真相」
・恐怖心克服!快音生む打撃の秘密とは
・1軍復帰へ…正木が挑む「執念の練習」
諦めないポストシーズン出場…「可能性にかける」
「1軍で(試合に)出るのが目標です。どんな形でもいいので出たいと思っていますし、そのためにはバッティングで貢献する。アピールしないといけない立場だと思うので。そこはもう、本当に突き詰めていきたいです」
25歳はもちろん、ポストシーズン出場を諦めてはいなかった。「可能性があるなら、それにかけて頑張るだけだと思うので」。6日から始まるみやざきフェニックス・リーグで結果を出すことに集中し、目の前のプレーに全力を注ぐつもりだ。「結果にこだわって戦いたい」。自身のバットで1軍への道を切り拓く決意だ。
一方で、小久保監督の言葉通り、帰塁やダイビングに関してはまだ解禁はできない。「今年いっぱいは制限付きでやらないといけなくて。怪我してから8か月くらい経たないとダメって言われていて……。それが今年の終わり頃なので」と正木は明かす。
恐怖心を乗り越えた先の快音
それでも、スイングに問題がないことは2軍戦の“結果”が証明している。「復帰当初は、片手を離してはいけなくて、必要以上にボールを呼び込みすぎて詰まらせることもありました」と振り返る。しかし、実戦を重ねる中で、その感覚も徐々に解消されていった。
「チェンジアップとか低めの変化球に抜かれて、やられちゃうことが多かったりもしましたけど。試合にも出させてもらって、もう怖さもなくなりました。本当に怪我をする前と同じような感じで振れるようになりました」。恐怖心が消え去った先には快音が待っていた。9月23日のウエスタン・オリックス戦ではソロ本塁打、25日の同戦では満塁本塁打を放つなど、確かな手応えを掴んでいる。
「『今季絶望』と言われた中で、ここまで戻すことができましたし、2軍戦に出られるだけでもすごく幸せを感じるというか……。それだけで幸せです。でも1軍に行けたら、それは怪我をした今年の中では一番いい形で終われると思います。今は2軍ですけど、そこの目標はブレずに。やるからには1軍を目指してやりたいと思っています」
筑後のファーム施設で2軍が練習を行った10月2日、全体練習が終わった後も背番号31は黙々と振り込んだ。「今シーズンももう少ないですし、悔いのないようにやりたいです。リハビリ過程ではどうしても本数に制限があって、やりたくてもできなかった。自主練で振れなかったというのもあったので」。
1人でスタンドにボールを置き、ティー打撃を行うと、その後も打撃マシンに向き合った。バットを振れなかった期間の悔しさを晴らすように、鋭い打球音が響く。打撃練習を終えた表情には充実感がにじんでいた。「悔いなく、やれるだけやろうと思って取り組んでいます」。今はただ、納得いくまでバットを振り込む毎日。1軍復帰という最高の形でシーズンを終えるため――。正木は宮崎でもアピールを続ける。
(飯田航平 / Kohei Iida)