経営会議でぶちまけたGMの「半分強がり」 勝利と育成…大苦戦の前半戦の裏にあった球団のプラン

独占インタビューに応じた三笠杉彦GM【写真:小池義弘】
独占インタビューに応じた三笠杉彦GM【写真:小池義弘】

GMが訴えた「日本ハムの若手、中堅と力は全く変わらないと思っている」

 鷹フルがお送りする三笠杉彦GMの独占インタビュー。第4回は想像していなかった苦戦を強いられていた時期に行われた経営会議での出来事について。そこでGMが語った“強がり”とは――。(取材・構成=長濱幸治、福谷佑介)

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「半分強がりでしたけどね」

 編成責任者である三笠GMは、苦笑いを浮かべながら“あの時”を振り返る。

 シーズン序盤、ソフトバンクは思わぬ苦戦を強いられていた。開幕から7試合で1勝6敗。4月半ばから2度の5連敗を喫し、5月1日の日本ハム戦を終えた段階で借金7を抱え、パ・リーグの最下位に沈んでいた。

 チームが低迷するどん底の状況で、ある日、三笠GMは球団の経営会議に臨んでいた。他の経営陣の前で、こう訴えたという。

「ホークスは若手も実力があって、しっかり活躍してくれるチーム。日本ハムの若手、中堅と力は全く変わらないと思っている。ただ、何年も前から若手を起用している日ハムさんで500打席立ってる人と、実力は同じだけど1軍で50打席しか立っていないうちの選手と、その差が今はちょっと出ているので。じっくりと見ていてもらいたい」

 柳田悠岐外野手をはじめ、主力の離脱が止まらなかった。フロントとしても、ここまでのつまずきは想定外だった。「半分強がりでした」という言葉が示す通り、三笠GM自身も復調への確信を持てずにいた。だが、この絶望的な状況こそが常勝軍団の新たな扉を開く“想定外のスイッチ”を押すことになる。

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続きの内容は

・昨季の戦い方とは全く違う GMが明かす今季のチーム戦略
・主力離脱の危機を、優勝の好機へと変えた若手台頭の舞台裏
・GMが最大級の賛辞を送る、小久保監督の知られざる手腕

 三笠GMが経営会議で語った通り、経験を積むにつれて若手選手たちが頭角を現した。幸か不幸か、主力に故障者が続出したこともあり、柳町達外野手や野村勇内野手、佐藤直樹外野手、山本恵大外野手といった若手、中堅が1軍での出場機会を得て成長。2023年ドラフト1位の前田悠伍投手はプロ初勝利をマークし、杉山一樹投手はロベルト・オスナ投手に代わって守護神を務めるまでになった。成長した彼らの存在なくして、今季の優勝はあり得なかった。

 ぶっちぎりで優勝した昨季と今季では、チーム戦略に明確な違いがあったと三笠GMは語る。

「今年は勝つし、長い期間にわたって強いチームを作るために若手をしっかり使って」

「去年は小久保監督も1年目で、残念ながら日本一は逃しましたが、盤石の布陣を敷いてリーグ優勝しようというような年だった。今年は長い期間にわたる強いチームを作るため、なるべく若手をしっかりと使ってもらいながら、勝てるチームにする。毎年勝ってほしいとお願いをしているチームとしては難しいんですけれども、前半は若手も含めた“大きな枠”のメンバーで戦って、優勝争いが本格化するにつれて絞っていくという形になった。143試合を戦う中で短期的にも勝てるし、中長期的にも若手が経験を積めるようになっていいですよねと、小久保監督ともよく話をしていました」

 小久保裕紀監督の就任1年目だった昨季は、3年連続でリーグ優勝を逃していた背景もあり、万全の戦力を準備した。磐石の体制を整え、チームは期待通りにパ・リーグを制した。今季も当然、目指すは優勝ながら、特にシーズン前半は中長期的な視点で若手を起用。育てつつ戦い、勝負どころになれば勝利を一番に追求していくというプランを描いていた。

 故障者の発生は想定外だったものの、「育てながら勝つ」という方針が若手や中堅の成長を後押しする構図が図らずも作り出された。「当然、今年の優勝だけで見てもとても意義深いと思っています。来年以降の中長期的に見ても、いろんな見通しが立てられるようになった。そういう意味でも、意義のある優勝だと思います」。三笠GMはそううなずいた。

 この困難な状況を乗り切れたもう一つの要因は、小久保監督の手腕にあるとGMは指摘する。

「昔のようにいわゆる全権で、『自分が全部やるからそれを聞いてくれ』というようなスタイルではなく、各コーチの特長やスタッフの専門性を生かす。それらを尊重しながら、組織としてマネジメントしてくださったと思います」

 現在のホークスはコーディネーター制を敷いている。本来のコーチ陣に加え、メンタルパフォーマンスコーチやアナリスト、データサイエンティスト、トレーナーといった専門家が集う体制だ。1軍監督としての役割は、これらを束ねて組織として機能させ、チームを勝利に導くこと。指揮官は、現代野球に求められる“新しいリーダー像”を体現していた。

 三笠GMは「本当に素晴らしい戦いをしていただいているとの評価です」と最大級の賛辞を送る。「我々は今年も勝つし、長い期間にわたって強いチームを作る」。苦戦の末に得られたものは「優勝」の2文字だけではない。勝利と育成、目先と将来――。相反する要素を融合させて手にした頂点は、来季以降の礎にもなるものだった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)