戦力として必要なのか…又吉克樹が独占激白 繰り返した自問自答、悟った“最後”の登板

9月28日のウエスタン・中日戦に登板する又吉克樹【写真:竹村岳】
9月28日のウエスタン・中日戦に登板する又吉克樹【写真:竹村岳】

球団から来季の契約を結ばないことが発表された

 その表情は、どこか清々しかった。自分の胸中に対して、偽りは一切ない。「1年間、腐らずにできてよかった」と心から思えた。ソフトバンクは30日、又吉克樹投手に対して来季の契約を結ばない旨を通達したと発表した。

 2021年オフに国内FA権を行使して、中日からホークスに移籍。独立リーグ出身の選手では、初めてFA権を行使した選手となった。福岡にきて4年目の2025年は、1軍登板なし。4年契約の最終年、勝負のシーズンは逆風からスタートする。3月のオープン戦では5試合に登板して防御率1.69。結果を残しながらも、厚い戦力層に阻まれて開幕1軍入りを逃した。

 3月22日には、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)からの提案で先発転向を決断した。先発ローテーションで起用してくれた2軍の首脳陣には「チャンスをいただけてありがたい」と感謝をしながら、1回1回の登板を大切にしてきた。8月には自らの意思で、再び中継ぎとしての再調整を選んだ。「そっちの方が勝負をかけられる」。諦めることなく、最後まで1軍昇格を目指してきた。そんな右腕の身には、疑念を抱かざるを得ない“ある出来事”も起きていた。

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続きの内容は

・又吉が問われた引退の選択肢、その答えは?
・柳田悠岐が又吉に教えた「大切な宝物」
・チームを去る又吉の「偽りのない本音」

ハッキリと問われた引退の選択肢…又吉の答えは?

 自分は戦力として期待されているのか――。春先からモチベーションを揺らがされるような言葉が聞こえてきたのも事実だった。4年契約の最終年。全てをかけるつもりで日々を過ごしてきた中、周囲の声に対して複雑な感情を抱いた。プロ12年目で立たされたキャリアの岐路。引退という選択肢について問われると、キッパリと言い切った。

「やめないよ。視野を広げれば、選択肢は日本以外にもある。絶対に最後までやり切るから」

 又吉にとって、今シーズンはともに戦ってきた仲間がユニホームを脱ぐ1年でもあった。中日の祖父江大輔投手、岡田俊哉投手が現役引退を表明。中でも祖父江は2013年ドラフトの同期入団で、苦楽をともにした存在だ。9月末、2軍の名古屋遠征では食事にも出かけ、酒を酌み交わして昔話に花を咲かせた。

 チームメートに愛されて、笑顔でやめていく盟友の姿。又吉自身も“その選択”は思い浮かばなかったのか――。「ソブさんが頑張ってきたのはもちろん見てきた。だからこそ俺は、絶対に簡単にはやめられないんだよ」。高校時代は無名の存在。独立リーグからプロ入りを果たし、通算503試合登板を積み上げた。34歳になった今も、自分を突き動かすのは“雑草魂”だ。納得がいくまで、これからも腕を振り続けていく。

又吉克樹と柳田悠岐【写真:竹村岳】
又吉克樹と柳田悠岐【写真:竹村岳】

“大好きな先輩”である柳田悠岐から教わってきたこと

「1年間、腐らずにできてよかった」。心からの本音だ。今年1月の自主トレは、柳田悠岐外野手とともに汗を流した。ポール間ダッシュを1本走るごとに、グラウンドに「正」の字を書いた。2軍の由宇遠征では投手陣を連れて食事へ。後輩たちに自分の経験を惜しむことなく伝え、時には「キャッチボールの相手を“シャッフル”してみよう」と積極的に案も出した。そんな右腕を慕う宮崎颯投手は「大切なことを教えてもらってきたアニキです」。その言葉には、又吉がどんな“背中”を見せてきたのかが詰まっていた。

 9月28日、ウエスタン・リーグ最終戦となった中日戦(ナゴヤ球場)。又吉は5回からマウンドに上がり、1回を無失点に抑えた。2死二塁のピンチでラストボールに選んだのは、磨き上げてきた最大の武器でもある左打者への高めのストレートだった。スタンドで愛妻も見守る中、気迫を前面に出してゼロを並べた。「投げられてよかった。148キロも出ていたしね。やってきたことは絶対に間違いじゃない」。そう語る表情は、この登板がホークスで最後のマウンドになることを悟っているかのようだった。

 2軍とはいえ、古巣とリーグ優勝をかけた一戦。降板後も「さぁいこう!」「つないでいけ!」とベンチで声を張り上げた。ホークスの一員でいられる瞬間を最後の最後まで全うする――。後輩たちに生き様を見せてきたは34歳はこうつぶやいた。「ギーさんから教えてもらったことだよ。あの人があれだけやるんだから、自分も頑張らないと」。柳田という大好きな先輩と過ごした時間は、大切な宝物だ。

 怪我もリーグ優勝も経験したホークスでの4年間で、103試合に登板した。「やり切った」と胸を張って、福岡を去る。後輩のため、チームのため、何よりファンのため――。全力で戦ってくれた又吉克樹の存在を、絶対に忘れない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)