「態度は相当ひどかった」 笹川吉康を“見捨てなかった”理由…松山2軍監督と3度の個人面談

笹川吉康【写真:竹村岳】
笹川吉康【写真:竹村岳】

悔しい1年も…明かした指揮官への感謝

 才能開花にかかる期待。それに応えられなかったことは自分が一番わかっている。昨季、1軍で待望のプロ初本塁打を放った笹川吉康外野手。5年目の今季、1軍では24試合に出場して打率.186、1本塁打、8打点と、そのポテンシャルを活かしきることができなかった。

「去年日本シリーズを経験して、今年から1軍にできるだけ帯同というか……。そういうつもりでいたんですけど、春先でもう(2軍に)落ちてしまって。1軍にいなきゃいけないと決めた1年で2軍にいることは、今まで2軍にいた時とは違う気持ちでした」

 今季こそはと意気込んで臨んだシーズン。しかし、待っていたのは開幕早々の2軍降格という厳しい現実だった。打率は1割台に低迷。ベンチでは物に当たり、試合中の声も出なくなっていった。誰もが手を焼きかねない状況で、決して見捨てることはなかったのが松山秀明2軍監督だった。「3回呼び出されました」。そう語る笹川と指揮官との間には、一体何があったのか。

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続きの内容は

・「部屋に呼ばれて、『まぁ座れや』」
・笹川が明かす、態度を改めた「本当の理由」
・23歳の笹川が誓う、未来への「秘めた決意」

呼び出された監督室「そんな感じでやれよ」

「部屋に呼ばれて、『まぁ座れや』って。僕が試合中に不貞腐れているというか、真顔というか、怒ったような感じの顔をしていたので……。(松山監督と)2人の時はけっこう笑いながらしゃべっていたので、『そんな感じでやれよ。もっと楽しそうにやれよ』って言われました」
 
 笹川は当時の自身を「相当ひどかった」と振り返る。凡打するたび物に当たり、悔しさを露骨に表していた。チームの和を乱しかねない態度。だが、松山監督はその姿を冷静に見ていた。「松山さんはそういうのが嫌いではないんですよ。笑っているらしいです。ただ、チーム的にはダメだから注意はされました」。

 そんな笹川に対し、松山監督が取った行動は、チーム全体の目の前で叱責することではなかった。「みんなの前で怒鳴るんじゃなくて、3回くらい部屋で話しました」。監督室や遠征先のホテルの部屋に笹川を呼び出し、2人きりで対話の場を設けた。

 ソファに向かい合って座ると、松山監督は諭すように笑顔で語りかけた。「1軍を経験して、お前は将来チームの主軸として引っ張っていかなきゃいけない存在。その姿を見せろ」。松山監督は笹川の性格を理解した上で、心に響く言葉を選んだ。その指導は、厳しさの中に確かな愛情が込められていた。

「1年目から彼と関わってきて、僕に一番叱られた選手だと思います。彼は成長できる可能性を十二分に持っている選手。吉康にとっては厳しさの方が勝つかもしれないですけど、彼をなんとかしたいという思いがあるので。それは球団も同じだと思うし、ここから一人前になってほしい」。23歳のさらなる成長に松山2軍監督は期待を寄せる。

一番辛いのは試合に出られないこと

 規律を乱したことへの“ペナルティー”として、試合に出られない時期もあった。「僕が一番辛いのは出られないことだとわかっているんだと思います」。野球を奪われることの辛さを身をもって知ったことで、心に変化が生まれた。

「本当にひどい態度だったのに、それでも見捨てずに使い続けてくれた監督には本当に感謝しています」。自らの態度や過ちを認め、感謝を口にする23歳。そして、その才能を信じ、厳しくも温かい指導で寄り添い続けた松山監督。2人だけの時間は、笹川の野球人生にとって、かけがえのない財産となるはずだ。この思いを忘れることなく、誰もが期待するポテンシャルを開花させてほしい――。

(飯田航平 / Kohei Iida)