今宮健太が声出しに名乗り出たわけ 2軍で示した“背中”…若鷹に伝えた「1勝の重み」

試合前に声出しを務める今宮健太【写真:竹村岳】
試合前に声出しを務める今宮健太【写真:竹村岳】

リーグ優勝をかけた一戦…今宮健太が務めた“声出し”

 自らの背中を見せるように、チームの先頭に立った。言葉の端々に乗り越えてきた数々の苦難が滲む。ほとんどの若鷹が味わったことのない“あと1つで優勝”という緊張感の中で、ナインを鼓舞したのは今宮健太内野手だった。「3試合の中で1つ勝てばというところまで来て。勝ちたかったですけどね」。28日のウエスタン・中日戦(ナゴヤ球場)に1-2で惜敗し、リーグ3連覇を逃したホークス2軍。V逸という結果を真っすぐに受け止めたが、今宮のリーダーシップが垣間見えたのが試合前の声出しだった。

 1勝すれば優勝が決まるという状況だった中日との3連戦だったが、結果はまさかの3連敗。悔しさを胸に、中日ナインが作った歓喜の輪を見つめるしかなかった。今宮にとっても、左ふくらはぎ痛からの復帰戦となったこのカード。遊撃守備にも就き、計8打数2安打。27日には1軍がリーグ優勝を決めたばかり。「時間をかけながら、いつ呼ばれてもいいようにしたいです」と静かに意気込んだ。

 ウエスタン・リーグの最終戦。勝った方が優勝という明確な条件のもと、両チームはこの日を迎えた。試合開始まで残り30分。午前11時になると、ナインはベンチ前に姿を見せた。コーチから確認事項が伝えられると、“声出し”の時間だ。今宮は自ら輪の中心に歩み出た。

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続きの内容は

・今宮が自ら声出しした「真の理由」
・柳田が若鷹に伝えた「魂の言葉」
・若鷹たちが今宮から得た「気づき」

2022年には柳田悠岐が「全部俺のせいにしろ!」

「きのう1軍が優勝しましたけど、ああいう姿を見ているとみんなも『1軍で活躍したい』、『あそこに入りたい』という気持ちになったと思います。2軍で最終戦、勝てば優勝というのはなかなかない経験です。監督、コーチが言うように楽しみながら、心を燃やして、頭は冷静に。自分たちがやるべきことっていうのはゲームの中で出てくるので、それを絶対にこなせるように。大げさですけど、この1試合を自分の野球人生につなげられるような、そんな1日にしてください。シーズンラストです。頑張りますよ、さぁいこう!」

 26日は渡邉陸捕手、27日の声出しは山本恵大外野手だった。これまでと同じように、後輩たちが務めてもおかしくない状況。なぜ今宮は、自ら“旗振り役”を担ったのか――。

「最後の最後、優勝が決まるゲームっていうのはなかなか経験できることではないので。1軍になるとまた、話にならないぐらい緊張感も違いますけど。そういう中で最後の1試合ができるのは貴重だし、なかなかないことだったので。こんな時こそ、思い切っていこう、楽しんでいこうとは言いました」

 2014年、1軍のレギュラーシーズン最終戦で“勝てば優勝”という一戦を経験した。一発勝負のトーナメントではなく、長いペナントレースを戦ってきたからこそ生まれる独特の緊張感だ。2022年10月2日のロッテ戦(ZOZOマリン)では、声出しで柳田悠岐外野手が「負けたら全部俺のせいにしろ!」とナインを鼓舞した。その言葉に、今宮自身も背筋を伸ばした。この日のナゴヤ球場も満員御礼。今この瞬間は非常に貴重なんだということを、若鷹に伝えたかった。

「中日さんの雰囲気も、この3連戦はすごかった。ファームでなかなか見る雰囲気じゃなかったし、中日さんのファンの方々がそういう空気を作ってくれた。勝つに越したことはないし、本当は勝ちたかったですけど、1人1人成長はしていると思います。勝負には勝ち負けがあるので。たとえ優勝していたとしても、ここで満足している選手はいないと思います。やっぱり1軍に行かないといけないですし、いい経験としてやっていってもらえたらと思っていました」

守備を終えてベンチへと引き上げてくる今宮健太【写真:竹村岳】
守備を終えてベンチへと引き上げてくる今宮健太【写真:竹村岳】

正木&井上がかき立てられた“やる気”

 敗れはしたものの、リーダーの言葉に若鷹たちも鼓舞されていた。この3連戦、11打数5安打1本塁打3打点と打線を牽引した井上朋也内野手は「『誰やる?』みたいな感じになったんですけど、ミヤさんみたいないろんな経験をしてきた選手がああやってくれて、士気は上がりましたね」と頭を下げる。昨シーズン1軍で7本塁打を放った正木智也外野手も「すごく的を射ていたので、勝ちたいなっていう気持ちがみなぎってきましたし。偉大な方だなと思いました」と信頼を寄せた。

 プロ野球選手として、目指すのは1軍の舞台。今宮自身も、ポストシーズンで戦力になるために調整していく。「自分が選択したことを全力でやり続けて、何らかしらの形でもいいと思っているので。力になれたらなと思います」。リーグ優勝を目指して全力で戦った。背番号6の姿は、後輩たちの記憶にも深く刻まれたはずだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)