批判覚悟の上沢獲得、甲斐流出も捕手獲らず 「明確な自信は…」GMが明かす補強戦略

独占インタビューに応じた三笠杉彦GM【写真:小池義弘】
独占インタビューに応じた三笠杉彦GM【写真:小池義弘】

三笠GMに単独インタビュー…語られたオフの補強戦略の意図

 ソフトバンクが2年連続のリーグ優勝を成し遂げた。開幕直後は低迷し、一時は借金7まで膨らんだが、そこから驚異的なV字回復でパ・リーグの頂点に立った。長く険しいシーズンをいかにして戦い抜いたのか。「鷹フル」は編成部門トップの三笠杉彦取締役GM(以下、三笠GM)に独占インタビューを敢行。第1回は2025年シーズンを戦う上でのチーム編成の裏側に迫った。(取材・構成=長濱幸治、福谷佑介)

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 変革の年として迎えた2025年。昨オフ、長年にわたり正捕手としてチームを支えてきた甲斐拓也捕手がFA権を行使して巨人に移籍した。扇の要を失い、その穴をどう埋めるかはチームの大きな課題だった。球団が下した決断は、外部からの補強に頼らず、海野隆司捕手や谷川原健太捕手、渡邉陸捕手、嶺井博希捕手といった現有戦力で戦い抜くことだった。

 甲斐の穴を埋められる自信や根拠はあったのか。オフの動向について、三笠GMがその舞台裏を語り出した。その選択の背景には2025年シーズンだけでなく、未来のホークスまで見据えた目論見があった。

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続きの内容は

・甲斐流出も補強せず。捕手世代交代を今年断行した“理由”
・批判覚悟で上沢獲得。三笠GMが明かした交渉の舞台裏
・GMが感謝。上沢がチームにもたらした“数字以上のプラス効果”

「このメンバーでいけると明確な自信があったわけではありませんでした。ただ、データを見ると、まず補強ポイントは先発投手。それで上沢(直之)くんや上茶谷(大河)くんを獲得しました。野手に関しては結果的に怪我で苦労しましたが、他のポジションの見通しが盤石なうちに、捕手の世代交代を進めた方がいいのではないかと。中長期で見ると、他のポジションの世代交代が本格化する前に、少しずつ入れ替えた方が乗り切れるのではないかと考えました」

 今季開幕前に想定されていたホークスのメンバー構成を見ると、内野には今宮健太内野手や栗原陵矢内野手、牧原大成内野手、山川穂高内野手が中心におり、中村晃外野手、川瀬晃内野手、ジーター・ダウンズ内野手らも控えていた。外野に目を移しても近藤健介外野手、周東佑京内野手、柳田悠岐外野手と球界を代表する面々に加え、柳町達外野手、正木智也外野手と充実の布陣が整っていた。

 仮に捕手に関する戦力が多少低下したとしても、まだ2025年シーズンのうちは他の野手陣で補うことができる。チーム編成において戦力的なダメージが少ないうちに、勝利と並行して世代交代を進められることが最良の道――。今宮、中村晃、柳田といったベテラン勢が健在なうちに補強には走らず、次代の扇の要を育成する道を選択したのだ。

 シーズン序盤は試練の連続だった。主にスタメンを担った海野は連日マスクを被るのが初めての経験ということもあり、迷いや戸惑いを隠せなかった。チームは2度の5連敗を喫し、5月1日時点で借金7の最下位に沈んだ。ファンの間からは甲斐の流出を嘆く声も上がり始めた。

 ただ、そこから海野は目覚ましい成長を遂げた。「海野くんも最初は『ちょっと大丈夫か』っていうのがあったけど、しっかり成長してくれた」。三笠GMが語るように、優勝の立役者の1人になった。

 実際、リーグ平均の代替可能な選手に比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかを示す指標「WAR」で見ると、海野は9月22日時点で「1.0」とプラスの数値を記録している。三笠GMは「去年の甲斐(3.1)よりかは少し下がりましたけど、プラスになっているので良かったなと思います」とうなずいた。

上沢がもたらした勝利数以上の効果「若い選手のお手本にもなってくれて」

 その一方で、新たにチームに加入し、好影響を与えたのが上沢だった。2023年オフにポスティングシステムを利用してメジャーリーグに挑戦したものの、結果を残せずに1年でNPBに復帰。古巣の日本ハムではなく、ソフトバンクに加入したことで、その動向には多くの批判の声も上がった。

 三笠GMはそうした批判も覚悟の上で上沢獲得に乗り出した経緯をこう語る。

「(周囲からの声は)気にはなりますけど、我々はやることをやるだけですし、ルールを破って何かをしたわけじゃない。我々が集中することは、いいと思った選手に対して、しっかりしたオファーを出して獲得をすること。周りが何と言おうと、その先は彼がしっかり成功できるようにサポートをすることだと考えています」

 獲得交渉の最中、上沢の人間性に触れた三笠GM。間違いなくホークスにとって好影響を与えてくれるという確信が湧き上がってきたという。

「取り組みだったり、それこそアメリカに行って良かったことや悪かったこととか、そういう話を聞いて。大変知性的で、自分のことをよく見ていた。傲慢になることなく、日本球界でしっかり成功するような準備をしたいという発言をされていました。そういうところを大いに期待していました」

 上沢は明るい性格で若手投手とコミュニケーションをとり、さらに野手とも積極的に交流した。練習メニューも時間軸も違い、これまで交わることの少なかった投手陣と野手陣の架け橋になり、結束を強める役割も果たした。

「パフォーマンスもそうですが、本当に取り組みなどを見ても、とてもプロフェッショナル。全く威圧的なタイプではないので。後輩とも色々と話をしたり、逆に後輩からこうしたらいいんじゃないかという話を聞いたり。若い選手のお手本にもなってくれて、とても感謝しています」

 上沢は2桁勝利を達成して戦力として十分な成果をもたらしただけでなく、チームにさまざまなプラスの側面をもたらした。編成部門が描いた「補強しない」と「補強する」の絶妙な戦略が、2年連続のリーグ優勝という最高の結果に結びついた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)