
シーズン91勝から単独最下位…指揮官の“決断”
ホークスは2年連続のリーグ優勝を飾りました。鷹フルでは主力選手はもちろん、若手やスタッフにもスポットライトを当てながら今シーズンを振り返っていきます。2025年シーズン開幕からわずか2週間で出された小久保裕紀監督からの「緊急メッセージ」。想定外の単独最下位も、“右腕”の耳に入ってきた信じられない言葉――。数々の証言から、指揮官の“強さ”に迫ります。
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リーグ連覇まで残り1アウト。今にもベンチを飛び出そうとする選手、そしてグラウンドに立つナインを見つめる小久保監督の目は穏やかだった。想像もできなかった苦境を乗り越え、つかみ取った栄冠。指揮官としての力量をまざまざと示した1年だった。
新人監督記録となるシーズン91勝を挙げた昨季とは対照的な歩みだった。オープン戦で栗原陵矢内野手が右わき腹を痛めて離脱。開幕後も近藤健介外野手がわずか3試合の出場で腰の手術を強いられた。さらに4月11日のロッテ戦(ZOZOマリン)では柳田悠岐外野手が自打球によって右脛骨の骨挫傷を負った。
大黒柱を一気に失ったチームに王者の面影はなかった。チームを覆った不安、戸惑い。小久保監督は異例の速さで手を打った。開幕から2週間ほどしたある日、選手や首脳陣らを集めると、力強く言い切った。それは今シーズンの“合言葉”ともなった、あのフレーズだった。
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続きの内容は
・小久保監督が明かした異例の「合言葉」
・“右腕”が耳を疑った監督の「本音」
・苦境を乗り越えた指揮官の「真の力量
「今いるメンバーが、ホークスのベストメンバーだから。試合に出る選手はしっかりと準備をして、自分の力を出してほしい」
小久保監督は柳田が離脱して以降、報道陣に何度も繰り返した言葉がある。「今いるメンバーが最強なので」。いなくなってしまった主力のことを考えても仕方がない。残った選手たち全員が主力なんだ――。シンプルながらも強いメッセージ性を込めた言葉は、選手たちの心に刻まれた。
“右腕”が耳を疑った言葉「景色が違う」
「シーズン序盤であれだけ怪我人が出て、みんなも『どうなんだろう』『この選手はいつ戻ってくるんだろう』って思いながらやっていたと思う。監督が全員の前で話すことは1年で何度もあるわけじゃないし、本当に重要な場面なんだなというのは分かりました。監督が僕たちに求めていること、考えてほしいことを言ってくれたんだなと思いました」
選手会長の周東佑京内野手は、開幕から間もないタイミングでの緊急ミーティングが持つ意味を感じ取っていた。「自分たちがやるしかないし、目の前のプレーに集中するしかないと。みんなも感じたと思います」。指揮官の言葉が土台となったからこそ、5月以降の大逆襲が実現した。
小久保監督の“右腕”として2年目を迎えた奈良原浩ヘッドコーチは、シーズン序盤の戦いぶりについて率直な思いを口にした。「マズいなという思いはもちろんありましたよ。まだまだ残り試合があるとはいえ、借金7から優勝って相当に難しいことなので。周囲は『ホークスだから』という雰囲気はありましたけど、現場は全然そんなことは考えていませんでした」。
奈良原ヘッドコーチが忘れられない言葉があった。柳田の離脱以降も主力の故障者が相次いでいた時期だ。ベンチで小久保監督にこう声をかけられた。「今、楽しくないですか? 色んな可能性があるから。明日誰が(スタメンで)出ていくか、楽しいですね」。侍ジャパンでも小久保裕紀監督のもと、ヘッドコーチを務めた“盟友”にこそ明かした、偽りのない本音だった。
「そんな言葉を言えるなんて信じられなかった。監督の見えている景色は違うんだなと。采配にしても、2軍から呼んだ選手がすぐに活躍することが多いでしょう? この2年間、そばにいて小久保裕紀のすごさに驚いてばかりなんです」
苦境をただ嘆くでもなく、前を向いてタクトを振るい続けた小久保監督。圧倒的な力を示した1年目とは違うすごみを見せつけた2025年シーズンだった。常勝ホークス復権を託された指揮官の力量は本物だ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)