投手陣を「どうにかしてあげたい」 川瀬晃が感じる結束…投手と野手の絆を深めた”意外な存在”

川瀬晃【写真:小池義弘】
川瀬晃【写真:小池義弘】

9回に代打で登場し、1点差に迫る足掛かりとなる二塁打

 痛恨の2連敗を喫し、2位日本ハムに2.5ゲーム差まで迫られたホークス。あと1点が届かなかった21日のオリックス戦、みずほPayPayドームは落胆のため息に包まれた。9回に逆転への期待を抱かせる一打を放った川瀬晃内野手は敗戦後、周囲が抱く不安をかき消すように毅然と口を開いた。

「連敗が続くと焦りも、もどかしさもあります。ただ、ここまで来た以上は自分たちを信じて最後まで戦い抜くことが一番大事。試合後も『また明日切り替えていこう』という声が上がっていましたし、『こんなことでへこたれるか』とみんなが思っている。雰囲気は全く悪くなっていないです」

 2点を追う9回、先頭の海野隆司捕手に代わって打席に立った。相手のマチャドからは4月22日の同戦で、9回に同点となる適時打を放っていた。「相手も嫌なイメージは絶対にあると思った。先頭で代打を送られている以上はしっかり塁に出て、上位に繋ごうと。もう絶対に塁に出るという気持ちでした」。追い込まれながらも、真っすぐを弾き返した打球は左中間を破る二塁打となった。続く代打・笹川吉康外野手の中前適時打で、1点差に迫るホームを踏んだ。

「自分の状態がどうこうより、先頭で出てチームを盛り上げようという一心でした。余計なことは考えず、自分がチームに勢いを作るんだと」。結果的に1点及ばず敗れたものの、川瀬の一打が本拠地を埋めたファンのボルテージを最高潮に高めたことは、疑いようもなかった。

 今季、幾度となく勝負どころで重要な働きを見せてきた男は、投手陣への熱い思いを口にする。「投手陣が頑張ってくれているからこそ、苦しんでいるときにどうにかしてあげたいという気持ちにさせてくれる。自分はそこをものすごく感じています」。投手と野手の間にある例年以上に強い絆。その背景には、本来交わることの少ない投手と野手を繋ぐ意外なキーマンの存在があった。

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続きの内容は

・投手と野手の絆を深めた「意外な人物」の正体
・熾烈な優勝争いを戦い抜く「確かな自信」の源泉
・離脱した選手会長へ…川瀬の「特別な思い」

「今年は上沢(直之)さんが入ってきて、とにかく野手に話しかけてくれるんです。『頑張ってくれ』とか。そういうのを見て、僕も有原さんと話すようになったり、ピッチャー陣と話すことが多くなった。すごく会話が増えたのかなと思います」

「ピッチャーの声を聞くと、彼らが苦しいこともわかる」

 プロ野球の世界では練習メニューもタイムスケジュールも異なるため、投手と野手が交わる機会は決して多くない。各々がやるべきことをこなす中で、必然的に投手同士、野手同士の結びつきは強くなる。だが、今季のホークスは野手とも積極的にコミュニケーションを図る上沢の加入が変化をもたらし、結束が増したと川瀬は感じている。

「やっぱりピッチャーの声を聞くと、彼らが苦しいこともわかるし、こういう状況で投げるしんどさもわかる。10勝以上しているピッチャーが何人もいて、助けてもらっていることが今年は多い。そういう姿を見ているからこそ、なおさらピッチャーのために、という思いになります」

 この日も、先発の有原航平投手が2本のソロ本塁打こそ浴びたが、8回2失点と力投した。しかし、打線は初回と3回に2死満塁、8回には無死満塁と再三にわたって好機を築きながらもあと一本が出ず、粘投の右腕を援護できなかった。踏ん張る投手を何とかしたい――。その思いが川瀬のバットに乗り移っていた。

 野手で開幕から1軍に帯同し続けているのは、わずか5人。川瀬はその貴重な1人だ。「レギュラーをまだ経験したことがないので、まだまだ自分のことで精一杯ですけど。これだけ怪我人がいる中で1年間戦い、優勝争いに加われているのは自分でも自信になります」。柳田悠岐外野手をはじめ、故障者が続出した今季のホークス。時に先発で、時にベンチから、内野の全ポジションを守れる存在は首脳陣の信頼も厚い。究極のマルチプレーヤーは、優勝が迫る今季において紛れもない立役者だ。

 試合前には選手会長の周東佑京内野手が背中の痛みで練習を取りやめ、試合を欠場。シーズンも最終盤を迎え、誰もが満身創痍だ。「あの人(周東)こそ、体が痛いながらも一番声を出して、身を削ってプレーしている。その姿を見ていると、僕にできることがあればという思いは常にあります」。チームを思う背番号0は、言葉に力をこめた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)