川瀬&海野の四球…胸中は「マジで見とけ」 名曲の大合唱、ファンと一緒に“奪った”1点

勝ち越し四球を選びガッツポーズする川瀬晃【写真:小池義弘】
勝ち越し四球を選びガッツポーズする川瀬晃【写真:小池義弘】

応援歌ではなく「YAH YAH YAH」が鳴り響いた

応援歌ではなく“名曲”の大合唱。異様な雰囲気の中、大歓声に背中を押された。「みんながつないでくれたチャンスでしたし、なんとかするだけでした」。大事な首位攻防戦。熱く拳を握ったのは、川瀬晃内野手だ。

 シーズンも残り13試合。2位・日本ハムとの直接対決が18日、みずほPayPayドームで行われた。1点を追う8回、栗原陵矢内野手の同点ソロが飛び出すと、ホークスベンチは一気に攻め立てた。1死二塁から野村勇内野手が申告敬遠で歩かされ、続く海野隆司捕手は四球を選び満塁とする。ここで小久保裕紀監督は立ち上がり「代打・川瀬」を告げた。

 勝ち越しの大チャンス。田中との対戦に、スタンドも“一丸”となった。チャンステーマではなく、登場曲であるCHAGE and ASKAの「YAH YAH YAH」を大合唱。声援を一身に受けていた川瀬は、球場の空気をどのように感じていたのか。

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続きの内容は

・「YAH YAH YAH」の大合唱に何を感じたのか
・代打成功の裏にあった「冷静さ」の秘密
・海野隆司が申告敬遠に燃えた理由

5月2日のロッテ戦でも代打でサヨナラ打

「集中すると、僕はあまり(周りの声が)聞こえなくなってしまうタイプなんですけど、ベンチの皆さん、先輩の声が一番に聞こえてきました。ファンの方もすごく熱い応援をしてくれて、周りの声がたくさん聞こえた打席でした。登場曲に合わせて背中を押してくれましたね」

 3ボール1ストライクからの5球目、外角の直球を見極めると、右手を掲げて振り下ろした。気持ちがあふれ出たガッツポーズ。「ワンアウトでしたし、フォアボールでも点につながる状況。あのカウントで手を出したくなる気持ちもあったんですけど、それを抑えながら。周りの声が聞こえて、いつもより冷静でいられたので、ああいう結果になったのかなと思います」。リーグ優勝へ大きく近づく、貴重な1点となった。

 5月2日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)では、9回に3点を奪って逆転サヨナラ勝利を収めた。小久保監督も分岐点だったと位置付ける一戦だが、この試合を決めたのも「代打・川瀬」だった。守備固めだけではなく、首脳陣からは勝負強さも期待されている。「代打としての経験もたくさんさせてもらいましたし、きょうはすごく冷静に入れました。1打席、ワンプレーにすごく集中していますし、本当にその気持ちだけです」。静かな口調で、“ヒーロー”は胸を張った。

四球を選んだ海野隆司【写真:小池義弘】
四球を選んだ海野隆司【写真:小池義弘】

海野隆司が燃えた申告敬遠…語った熱い胸の内

 満塁にチャンスを広げたのは、海野の四球だった。古林の5球目が大きく外れると、ベンチに向かって右拳を握り締めた。「集中していたので、自然と出ました。点につながってよかったです」と、背番号62は落ち着いた表情で振り返る。9月は打率.412と波に乗る男は、直前の申告敬遠に心から燃えていた。

「打つ気満々でしたね。ランナーを返すことしか考えていなかったです。1球1球、すごい歓声だったので。自分としても入り込んでいけました。その前に申告敬遠もあって『マジで見とけよ』って感じでしたし、前向きな気持ちで打席に入れました」

 ついにリードを奪って9回に突入。マスクを被った海野は、この1点を守ることだけを考えていた。「杉山(一樹)もそうでしたけど、『これで勝つ。勝ち切る』というのは僕も思っていました。しっかりと3人で斬れたのはよかったと思います」。この一戦が持つ意味を理解したファンばかり。終盤につれてスタンドのボルテージは上がっていった。本拠地を包んだ“一体感”に、海野も「優勝がかかっているとか、そういうのもあるんじゃないですか」と嬉しそうに笑った。

「きょうに限らず、ファンの皆さんの声援は耳に届いています」と川瀬は言う。19日、野手は休日だが、川瀬と海野はバットを手に帰路に就いていた。どんな時も決して隙を見せず、優勝へのマジックナンバーは「7」となった。歓喜の瞬間は、もうすぐだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)