4軍戦の日程が一区切り…大越&斉藤和監督が語った現状
答えを探す道のりは、3年目を終えようとしている。ここにいる選手のほとんどが、その努力が報われることなくチームを去る。4軍とは、どうあるべきなのか――。大越基4軍監督と、斉藤和巳3軍監督の言葉から現状に迫る。
ホークス4軍は13日、14日に北九州下関フェニックスとの交流戦を行い、連勝を飾った。左肩の手術から復帰したばかりの正木智也外野手や、高卒1年目のルーキー・石見颯真内野手らが出場。一方で重松凱人外野手や西尾歩真内野手ら、スタメンには多くの育成選手が名を連ねた。現時点で予定されている4軍戦はなく、試合日程としてもこれで一区切り。7月末に支配下登録の期限を終えて、3桁を背負う若鷹はすでに2026年に向けて動き始めている。
2023年からNPB初の4軍制を導入したホークス。関東や四国、韓国に遠征する3軍とは違い、体力強化が主な目的だ。今季は5月以降に16試合の4軍戦が行われた。位置付けはあくまでも「非公式戦」。それぞれが自身のレベルアップをモチベーションとする中、若鷹たちはどんな1年を過ごしてきたのか。「こちらが足を引っ張らないようにしていました」と、大越監督が口を開いた。
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続きの内容は
・大越監督が若鷹へ送る、「秘めたメッセージ」
・斉藤和巳監督が育成選手に求める「本当の覚悟」
・ホークス4軍が探す「育成の正解」のヒント
最優先するべきなのは勝利ではなく育成
「3桁の背番号の子がどうしても多いので、彼らはアピールしていかないといけない。自分が言わなくても本人たちがわかっているので、細かいサインは出さないですね。自分から『この場面ではこのサインを出してください』って言ってくる選手もいますし、僕は“大人”として接してきたと思っています。1人1人にちゃんと特徴がありますからね」
大越監督は現役時代、投手としてプロ入り。その後は野手転向も経験し、引退後は高校野球の指導者を務めた。「アマチュアで監督をしていた時は勝つことにガチガチになっていたし、サインもいっぱい出していたんですけどね。今は、3桁の子を2桁にするための野球です」。最優先するべきものが勝利ではなく、育成になった。あくまでも選手の自主性を尊重しながら、ともに成長できるように試行錯誤している。
4軍戦には、チームの順位も個人タイトルも存在しない。自らを突き動かすのは、支配下に対する貪欲な姿勢だけだ。選手としてユニホームを着ている以上、目指すのは1軍の戦力になること。「これはいずれ、個人的にも言うと思うんですけど……」。大越監督が今はまだ胸の内に秘める“メッセージ”を、ここで打ち明けた。
「『そんなに時間はないよ』ということです。意外と選手って『まだ大丈夫』だと思うことが多いんですけど、もう1年が終わるわけじゃないですか。もしかしたらあと1年で(プロ野球人生が)終わるかもしれない。選手にとっては言われると嫌なんですけど、言葉にすると緊張感も出る。あとは本人たちが早く知ることです。僕はそれを“言う係”だと思っています。クビになるのって怖いし、周りの誰も口にしないかもしれないですけど。プロだからこそ、自分はあえてその言葉を伝えていきたいです」
若鷹に伝えているのは「自分の時間を作りなさい」
育成だけでも50人を超える大所帯。ほとんどの選手が支配下になれず、戦力外通告を受けることになる。「1軍の選手ですら時間は限られている」。きっぱりと口にしたのは斉藤監督。自覚するべきなのは、今いる場所が野球人生の“最終地点”だということだ。
「言ってみたら、小さい頃から続けてきた野球の“最終地点”に立っているわけですよ。ホークスから海外だとか別の場所にいこうと、必ず終わりはくる。野球選手としてのカウントダウンはもう始まっている。それを伸ばしていけるかどうかは、どれだけ個人が危機感を感じられるか。伝えているのは、自分の時間をちゃんと作りなさいということ。そのためにどうするか、能力を上げるための手助けをするのが僕らの仕事やと思っています」
現役時代に2度の沢村賞を獲得し、栄光を味わった。後輩を寄せ付けないほどのオーラを発し、エースとして何度も優勝に貢献した。ホークスに復帰して、指導者3年目のシーズン。育成選手たちと向き合う日々に「もちろん目線を下げているところはある」と言い切る。「部分的に意識が高い子はいるけど、トータルではまだまだ未熟。支配下になることがゴールではないし、1軍の戦力になるためには何が必要なのか、自分たちも一緒に考えていかないといけない。じゃないと勝負できないから」。
過去10年、育成入団からホークスのレギュラークラスにまで成長を遂げたのは 周東佑京内野手と大関友久投手の2人だけだ。育成における“正解”を、ホークスは探し続けている。大越監督が「まだわからないですね。ただ育成の場であることは間違いないので、3軍と4軍の足並みは揃えないと」と話せば、斉藤監督も「1軍には勝つという目的があるけど、教育にゴールなんてない。これが正しいというものを、我々が延々と追い求めていかないといけない」と力を込めた。4軍という未知の挑戦は、これからも続いていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)