5試合で52失点「嫌でも意識するところはあった」
5連敗中に計52失点を喫していた2軍投手陣。負の連鎖を断ち切るべく、背番号16がマウンドに上がった。「前のオリックスとのカードでも失点が多かった。続いてしまうのはチームとしても良くないですし、(流れは)嫌でも意識するところはありました。なんとか断ち切って、抑えられるようにと思っていました」。そう意気込み、10日のウエスタン・中日戦(ナゴヤ)のマウンドに上がったのは東浜巨投手だった。
9日の同戦は18失点で大敗し、チームは5連敗。リーグ2位に後退した。中日との首位攻防戦第2ラウンドとなった10日、東浜は6回までわずか2安打無失点ときっちり試合を作った。「状態的には悪くなかったと思います。状況に合わせながら、ゲームに入っていけたので。そこは良かったです」。7回途中1失点の力投で降板。野手にリズムを生み出すピッチングは頼もしかった。
7月20日の西武戦(ベルーナドーム)を最後に、1軍登板からは遠ざかっている。2軍では防御率1点台をキープし、再昇格のチャンスを虎視眈々と狙っているところだ。ファーム生活が1か月を超えても、感情に左右されることはない。どんな時も右腕の姿は、やるべきことに集中しているように見える。2軍にいる今こそ、自分自身の“プロの姿”が問われるからだ。
攝津正、和田毅…若手時代に背中を見てきた先輩たち
「それは先輩たちに教わってきたことです。できているかわからないですけど、僕もこうなりたいと思ってやってきたところでもあるので。せっかく選ばれてこのチームに入ってきているわけだし、(後輩たちには)プロとしてそういう部分を当たり前にしてほしいんです。1人でも気づいてくれたら若い子の実力も上がっていくだろうし、1軍の戦力になりうる選手が増えていく。そこにはもう上とか下とか関係ないと思うので」
今季が13年目。東浜自身も若手時代には攝津正氏や、中田賢一投手コーチ(ブルペン補佐)、和田毅球団統括本部付アドバイザーらの背中を見て学んできた。「ファームにいても腐らずに、自分のことを淡々とやっていた姿は今でも覚えています。そういうところを見ていたことは、すごく財産だったんだなって今になって思いますね」。常に言動は見られている。後輩たちに対する意識は、どんな時も忘れたことはない。
「しゃべるのは得意じゃないので」。言葉で示すタイプではないと照れ笑いを浮かべたものの、右腕なりに誠実な姿を見せてきた。「気づいている人がいるかどうかわからないですけど。まずは自分のやるべきことが大事。一番のきっかけは1軍に上がることですから」。プロとして、枠は奪い合う。厳しい世界の中で、熱い競争をすることが必ずレベルアップにもつながっていく。
6回無死…渡邉陸と呼吸を合わせて“解禁”したボール
この日、バッテリーを組んだのは渡邉陸捕手だった。3回2死、打席に迎えたのは1番の尾田。前日には6打数6安打を放ち、波に乗っている打者だった。一塁線を破られる三塁打を浴びると、渡邉はマウンドに歩を進めた。「目の前のバッターを抑えれば点は入らない。次で勝負するという割り切りと、自分のベストボールに集中できたので」。言葉通り、東浜は続く鵜飼を二飛に打ち取ると、力強く“相棒”を指差した。呼吸が合っていたことが伝わってくるシーンだった。
「陸とはベンチ裏でも毎イニング、話をしていました。しっかりコミュニケーションが取れているのはいいことだと思います」。1点をリードした6回無死、再び尾田と相対した。力ない左飛に打ち取ったのは、この試合で初めて“解禁”したチェンジアップだ。「2本打たれている状態だったので。3打席目、先頭を出したくないところで使えたのは陸と話していた通りでした」。しっかりと意見を合わせて投じた1球。手ごたえは十分だった。
「やることを続けるしかないですし。もちろん状態を上げていくことにフォーカスして、トレーニングも積んでいますけど。その中でも、自分のベストパフォーマンスが出るようにやっていけたら。きょうも2軍ですけど、ちゃんとした試合なので。チームの勝つ確率がどう上がるのかを考えながらやっていました」
チームの連敗を止めた。野手陣も信頼を寄せるような、頼もしい姿だった。「それは印象だと思いますけどね。僕はどの試合でも変わらず、100%を出せるようにやっています。これでまた1つ落ち着けたらいいですけど」。どんな時でも、絶対にプロであり続ける。東浜巨の姿を、見逃してはいけない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)