最短復帰のはずが1か月超え 大山凌が抱く“投げたがり”の葛藤…感覚が「追いつかない」

中日戦に登板した大山凌【写真:竹村岳】
中日戦に登板した大山凌【写真:竹村岳】

8月3日に登録抹消…最短復帰のはずが1か月以上の調整に

 落ち着いた口調で現在地を語った。プロ2年目であらためて“壁”にぶち当たっている。「自分を信じてあげてもいいんじゃないかなと思いますけどね」。偽りのない本音を吐露したのは、大山凌投手だ。

 今季はオープン戦から結果を残し、開幕1軍入りを果たした。26試合に登板して1勝1敗1セーブ、防御率2.35。ロングリリーフの役割をこなしながら、ブルペンに自分だけの居場所を作り始めていた。8月3日に登録抹消とはなったものの、小久保裕紀監督は「絶対に必要な戦力なので。こっち(1軍)で復調を待つというよりは、投げられる状態にしてほしい」。あくまでも前向きな意味で時間を与えたことを強調していた。

 最短復帰を目指していたが、再調整から1か月以上が過ぎた。9日にはウエスタン・中日戦(ナゴヤ球場)に登板したが、被弾を含む1回5失点。4安打2四球と、思うようにコントロールすることができなかった。大山の身に何が起きているのか。近況を打ち明けた。

1軍で26試合に登板しながらも…胸中は焦っていた

「自分がやりたい動きだとか、力を入れたい場所があるじゃないですか。それが言うことを聞かないというか……。こう動かしたいんだけど力が伝わらない。やりたいこと、自分がどういうふうに進んでいきたいのかは明確に出ているんですけど、そこに追いついてこない感覚です」

 春先から、チームの勝利のためにブルペンを支えた。試合で投げなくても肩は作る。知らず知らずのうちに溜まっていた疲労が、はっきりと体に現れてしまった。「目で見える数字だと26試合。周りからしたら『体力ないな』って思われるかもしれないし、僕もそう考えていたんですけど。実際はいろんなところで動いているわけだし、肩を作る回数も含めて、疲れるのは当然でした」。抜くところはしっかり抜く。調整の中でそんな時間があってもよかったと、今になって理解できる。

 自分自身を“投げたがり”だと認める右腕。まだまだアピールが必要な立場だっただけに、生真面目な性格ゆえの焦りがあった。「いい意味で余裕がなかったです。自分のポジションを守らないといけないので。そういう意味でも勝ちパターンの3人(藤井皓哉、松本裕樹、杉山一樹)は本当にメリハリがしっかりしているんです」。キャッチボールの球数が増えていたのも、不安だった証。納得がいくまで、いい感覚を探し続けた。今の右腕に必要なのは“勇気”だ。

「いろんな先輩の話を聞いても、やっぱり投げすぎだとすごく言われました。まだ2年目ですし、シーズンが長いとわかっていても、上手くいかなかった。プロ野球人生のもっと“先”まで考えた時に、一日も無駄にしたくない気持ちがどうしても自分の中にあったんです。そこは投げない勇気じゃないですけど、もっと自分を信じてあげてもいいのかなと思いました。今回のことがきっかけで、いい方向には進めていると思います」

中日戦に登板した大山凌【写真:竹村岳】
中日戦に登板した大山凌【写真:竹村岳】

大山自身も認める“一番綺麗な投げ方”をしていた時

 2軍で方向性を探す日々。きっかけをくれたのは、父・栄幸さんが送ってきた1枚の写真だった。「小、中学校の時のものです。自分的にも父親的にも、その時が一番綺麗な投げ方をしていたと思っているので。その感覚を思い出しましたし、やりたいことが見えてきましたね」。照れもなく、はっきりと感謝の言葉を口にした。右腕の最速は154キロ。「正直、これまでは球が速くなるビジョンが見えなかったんです。でも今やっている感じだと、ハマったらもっと速くなる感じがします」と手ごたえは十分だ。

 ルーキーイヤーだった昨シーズンも、リーグ優勝に貢献した。日本ハムとのデッドヒートが続く今季も残り18試合。再び1軍に戻り、戦力として最高の瞬間に加わっていきたい。

「もちろん僕も優勝に貢献したいし、自分をアピールしたい気持ちもあります。去年もクライマックス・シリーズと日本シリーズは外れましたし、同じことはしたくない。(再調整になって)最初は早く戻りたいって焦っちゃったんですけど、もう1回しっかりとやりたいです」

 小久保監督が「絶対に必要な戦力」と認める存在。もっと自分を信じれば、必ず結果はついてくる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)