岩井俊介に「このままじゃ終わる」 首脳陣が与えた“2択”…答えを探した苦悩の日々

岩井俊介【写真:加治屋友輝】
岩井俊介【写真:加治屋友輝】

明かした心境…「落ちてしまっていた」

 6月5日に出場選手登録を抹消されて以降、ファームで安定した投球を続けていた岩井俊介投手。6月27日から8試合連続無失点を記録するなど、1軍再昇格へ向けて万全の状態をアピールしていた。8月19日の試合では、甘く入った変化球を打たれて久しぶりの失点を喫したものの、直球は156キロをマーク。状態の良さは見て取れた。

 しかし、2年目の右腕は人知れず長いトンネルの中にいた。「一時期、気持ち的にも落ちてしまっていたんです」。降格直後は張り詰めていた糸が切れたかのような状態に陥っていたことを素直に認める。球に力はあっても、制球が定まらない。どこかフラストレーションを抱える日々を過ごしていた。

 そんな状況を救ったのが、首脳陣から提案された「ミニキャンプ」だった。約2週間、実戦から離れて自分自身と向き合う時間。その中で、マンツーマンで支えた牧田和久2軍投手コーチ、そして松山秀明2軍監督からかけられた言葉が、岩井を再び前へと突き動かした。苦悩の末につかんだものとは一体何だったのか――。

即答した「練習します」

「自分の思ったボールを操れるようにならないと、1軍では勝負できない厳しい世界。とにかく結果を求めて。厳しい言い方になるけど、2軍ではもうずば抜けた成績、圧倒的な数字を残さない限りは上には行けない。その意識の問題かなと」

 こう語るのは牧田コーチだ。岩井の状態を考慮した首脳陣は、2軍のベンチに入れたまま状態を上げていくか、期間を与えて練習に取り組むかの選択肢を与えた。右腕は迷わず「練習します」と答え、6月下旬から7月上旬まで、自身と向き合うための“ミニキャンプ”に臨んだ。

 しかし、キャンプ序盤は模索の日々だった。「いろんな方からのアドバイスがあったんですけど、頭がこんがらがっていました。ブルペンにも入っていたんですけど、本当によくなくて」。力強いボールは投げられても、コントロールが定まらない。「過去イチやばい」と岩井が感じるほど、心と体はバラバラだった。

 その状態を、付きっきりで見ていた牧田コーチは冷静に分析していた。「なぜ落とされるのか、何が自分には足りないのかをまだ考えられていない。ただベールに包まれているだけ。このまま行ったら気づいたら野球人生が終わっちゃうよって」。目を向けたのは技術ではなく気持ちの部分。「結局は自分に矢印を向けないといけない」。結果がすべての世界で生き抜くための厳しさを説き、自らの力で殻を破ることを辛抱強く待ち続けた。

背中を押した指揮官の言葉…

 出口の見えない迷路をさまよう中、岩井は一つの答えにたどり着く。数々のアドバイスを一度頭の中から消し去り、“無心”で腕を振ることに集中した。「『あ、この感じだ』と思いながら。あのまま試合に出ていたら、もっと良くない方向にいっていた可能性もあるので。本当によくなったから、あのミニキャンプをやってよかったと思っています」。

 自力で出口にたどり着いたが、さらに背中を押したのが松山2軍監督からの言葉だった。「『もっと余裕を持って、遊んでいけ』と言われました。『投手のほうが有利なんだよ。プロの世界は自分が稼げればそれが正解。どんな手を使ってでも抑えろ』と」。その言葉が岩井の心を軽くし、持ち前の強気な投球スタイルを取り戻させた。

 苦悩のミニキャンプを経て、心身ともに一回りたくましくなった右腕。昨季はルーキーながらリーグ優勝のビールかけを経験。日本シリーズのマウンドにも立った経験も、現状を思えば悔しさしか感じない。「また味わいたいです。次は抑える。日本シリーズで絶対に抑えます」。残り試合もわずかとなったが、悔しさを晴らす舞台はその手でつかみ取る。そのためにも1球1球にすべてを懸ける。

(飯田航平 / Kohei Iida)