笹川吉康に「お前ならもっと」 周東佑京が変えた意識…盗塁成功に目尻を下げたワケ

周東佑京(左)と笹川吉康【写真:古川剛伊】
周東佑京(左)と笹川吉康【写真:古川剛伊】

伝授した周東も…「覚えてます」

 2年前の教えが今も胸に残っている。3日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)、6点リードの6回2死一塁の場面だった。併殺崩れで一塁に残った笹川吉康外野手が果敢に二盗を試みた。一時はアウトとコールされたが、リプレー検証で判定はセーフに覆った。点差があったとはいえ、足も大きな武器になることを証明した盗塁だった。

 一塁ベースから数歩、土と芝の境界線であるアンツーカーギリギリまで大きなリードをとった笹川。2軍の試合では日常的に見られた光景だが、1軍の舞台でもそのスタイルを臆することなく貫いた。それなりのリスクもある中で、背番号44が大きなリードを取ることには理由がある。その原点には、周東佑京内野手から授かった“金言”があった――。

大きなリードをとる笹川【写真:小林靖】
大きなリードをとる笹川【写真:小林靖】

数えるほどしかいない大きなリード

「周東さんの盗塁講座があったんですよ」

 笹川がそう振り返るのは、2023年の秋季キャンプだ。周東が若手選手に走塁技術を伝授したことがあった。そこでの教えは今も胸に深く刻まれており、出塁すれば必ず意識する内容だという。

「普通にいったら僕のほうが背が大きいんで、より大きくリードできるはず。でも、リード幅を比べたら佑京さんの方が大きかったんです」

 周東は自身と笹川のリード幅を比べさせ、「お前ならもっと出れる」と伝えた。その一言が、笹川の意識を根底から変えた。状況に応じてリード幅は変わるものの、アンツーカーを越えてリードを取るのは、ホークスでは周東、笹川の他に、イヒネ・イツア内野手や緒方理貢外野手くらいだ。

周東が喜ぶ成長…「嬉しいです」

「覚えてます、覚えてます。言ったことも覚えていますし、それをやってくれているのはすごく嬉しいです」。笹川が2年前の教えを実践していることを伝えると、周東は嬉しそうに語った。そして、この日の笹川の盗塁についてもチームリーダーとしてこう評価した。

「本当に盗塁できる選手だと思っていますし、成功体験が今後、より走れる自信にもなるだろうと思います。きょうは安打が出なかったですけど、ゲッツー崩れで塁に残って走れることで、打てなくてもチャンスが作れる。これからレギュラーを目指すにあたって、大きな武器になるのは間違いないと思うので」

 安打こそ出なかったが、果敢に盗塁を試みた後輩の姿が頼もしかった。「やっぱり嬉しいですね。コーチもこういう気持ちなんだろうなと、今は思います」。2年前の教えを今もなお大切に実践してくれる後輩の姿に、目尻を下げた。

二盗に成功する笹川【写真:小林靖】
二盗に成功する笹川【写真:小林靖】

にじませる悔しさ…「情けない」

 それまでの笹川は、「牽制でアウトになりたくない」という恐怖心が先に立ち、リードを自重する傾向にあった。盗塁を成功させても、どこかギリギリのプレーが多かったと自己分析する。「手を伸ばした時の差分だけリードが取れるはず」。周東の言葉が、笹川の勇気あるリードを支えている。

 この日は「9番・右翼」でスタメン出場するも3打数無安打に終わった。「これだけチャンスをもらったのに……。ウエスタン2冠が情けないです」と悔しさをにじませながら球場を後にした笹川。求められるものは理解している――。それでもこの日の盗塁を大きな自信にしてほしい。

(飯田航平 / Kohei Iida)