2023年は右肩痛に悩み「野球がつまらない」
2年前とは、明確に違う。自分自身の変化を楽しんでいるところだ。「僕は後悔するのが一番嫌いなので」。正木智也外野手は、タマスタ筑後で地道なリハビリに励んでいる。
大卒4年目の今季、「5番・左翼」で開幕スタメンを射止めた。悲劇が身を襲ったのは、4月18日の西武戦(ベルーナドーム)。スイングした際に左肩を亜脱臼し、長期離脱を強いられた。「バンカート修復術」を受け、全治5~6か月と診断された。「まだわからないですけど、9月の中旬を目指してやっています」。実戦復帰が現実味を帯びるところまで、体は回復してきた。
長期のリハビリはプロ入り後2度目になる。2023年も開幕スタメンを掴んだが、18打席無安打で4月に登録抹消。右肩痛に悩み、「野球がつまらない」と漏らす日々だった。2年前と比較しても、今の表情は明るく、前向きに取り組んでいることが伝わってくる。「そこの差かなと思います」。自分の進むべき道が見えている。
左肩の手術から…割り切れるようになったタイミング
「2年前は1軍でも結果が全然出なかった。『何をやればいいんだろう』って手探りの状態でリハビリに入っちゃったんですけど、今はやることが明確になっている。トレーナーさんがしっかりとメニューを組んでくれて、『こういうトレーニングはここを意識する』とかもすごく丁寧に教えてくださるので。バッティングでもシーズンの序盤に試合に出て、課題を感じた部分があった。やることがはっきりしていることが、違うのかなと思います」
2024年は80試合に出場して打率.270、7本塁打、29打点。リーグ優勝に貢献するなど、1軍を経験したからこそ、今は道筋が見える。「2年前と去年とでは、バッティングは根本からガラリと変えています。まだまだできていないことも多いですけど、自分の型は見つかったと思うので」。左肩を治すだけではなく、レベルアップした姿でグラウンドに戻るつもりだ。「トレーニングをしていても、いろんな数値が上がってきている。それが打球にも現れているので、成長を感じながらできています」と語った。
徹底的な練習を自らに課すのも、モチベーションの高さの表れだ。先を見据えて割り切れるようになり、目標設定したタイミングについても、こう明かす。「手術を決めるまでは保存療法にしようと思っていましたし『なんとしてもすぐ戻る』って気持ちでした。なかなかトレーニングに目が向かなかったんですけど、退院した時には切り替えていましたね」。今を大切にしながら、はるか“先”も見据えて鍛錬を積む。そこにも、正木らしい価値観が滲んでいた。
「僕がスーパースターだったらあれなんですけど、全然じゃないですか。頑張らないとクビを切られる世界ですし、野球人生もそんなに長くはないと思うので。野球ができるうちに全部やっておきたいですし、僕は後悔するのが一番嫌いなので。後から『やっておけばよかったな』って思わないように」
当初の予定よりも早く…見据える実戦復帰
進化するために、重点を置いてきたのはフィジカル面。“ささやかな変化”も楽しんでいるところだ。「5月に自分の上半身の写真を撮ったんです。8月になってまた撮ったら全然変わっていたので、それは嬉しかったですね」。鏡に映った姿が、自分の成長を物語る。「今リハビリ組って朝が早いじゃないですか。毎日6時くらいに起きているんですけど、もちろん寝るのも早いです。『早寝早起きしている自分いいな』って思いますよ」と、はにかみながら明かした。
現在は外野ノックをこなせるまでに復活した。バッティングやキャッチボールなど、基本的な動作に不安はない。「あとはギリギリの打球だとか、ダイビングキャッチ、スライディング。そういうところができれば、実戦にも入っていけると思います」。手術を受けた際は、今季中の復帰は微妙なラインだと捉えていた。「無理かなと思っていたんですけど、本当にトレーナーさんたちのおかげです。少し早く予定が進んでいるので、ありがたいです」。成長した姿で復帰することが、支えてくれた人たちへの恩返しだ。
「自分の体だったり、数値が変わっていたら嬉しいですね。結構、楽しくやっていますよ」。優しい笑顔で、そう語った。必ず、進化した姿で――。正木智也がもうすぐ、グラウンドに帰ってくる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)