ベンチ入りでも「投げる気配ない」 突然鳴った1本の電話…木村大成、“2日限定”の1軍昇格

木村大成【写真:加治屋友輝】
木村大成【写真:加治屋友輝】

小久保監督も「2日限定という話はしてある」

 球場が大きく揺れた首位攻防戦の熱狂――。ベンチから眺めることができたのは大きな経験になった。“2日限定”の1軍昇格。「嬉しかったんですけど、やっぱり悔しさもありましたね」と思いを語ったのは、木村大成投手だ。

 北海高から2021年ドラフト3位でホークスに入団。4年目を迎えた21歳左腕だ。今季はウエスタン・リーグでチームトップの28試合に登板。2勝1敗、防御率1.41という成績を残し、リリーフとして飛躍を遂げようとしている。「2軍が開幕する前、3月の最初は先発で入っていたんですけど。中継ぎの方がチャンスがあるということで。1イニングずつ、ゼロで帰ることを意識していることが、安定した結果につながっているのかなと思います」と頷いた。

 7月30日に1軍昇格。8月1日には登録抹消され、小久保裕紀監督は「2日限定で呼んだ。その話は(1軍に)呼んだ時にしてあります」と説明していた。きっかけは1本の電話だった。1軍という響きに心を躍らせながらも、現在地を冷静に見つめていた。

空路で北海道へ…さまざまな感情が交錯した胸中

「『明日から来て。2日限定だけどいい?』と言われたので『お願いします、ありがとうございます』って。嬉しかったんですけど、悔しさもありました」

 7月29日、2軍はみずほPayPayドームでウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦に臨んでいた。木村大に電話をしてきたのは、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)。短期間になることはハッキリと伝えられたうえで、初めての1軍昇格となった。「電話があってから移動したので、札幌のホテルに着いたのは夜中の12時とかでした」。飛行機に飛び乗り、地元へと向かう胸中にはさまざまな思いが交錯していた。

 北海道北広島市出身。成人式もエスコンフィールドで行われるなど、生粋の“道産子”だ。待望の昇格に「思っていたよりも、友達が球場まで来てくれましたね」と笑顔で話す。7月29日から、チームは日本ハムとの首位攻防戦。白熱した雰囲気を、どのように感じていたのか。

「全方向から音が聞こえてくるので、映画館みたいな感じでした。ピリピリ具合も2軍とは全然違いましたし、観客もすごく多かったので。投げていないですけど緊張、興奮しながら見ていました」

ブルペンでは1度も肩を作らず

 接戦あり、逆転ありという3連戦。第2戦には8回に清宮が決勝打を放ち、エスコンフィールドは大歓声に包まれた。“完全アウェー”の中で戦う先輩たち。一方で、木村大は1度も肩を作らなかったそうだ。「投げる気配はなかったです。そこはまだ、僕の実力がない。ゆくゆくは緊迫した場面で投げたいけど、今の自分では頭真っ白になるんだろうなって。ああいう場面で投げることを、練習から意識しないといけないです」。憧れるだけではなく、いつかは自分がこのマウンドに立たなければならないと痛感した。

 先輩たちの姿からも、たくさんの収穫を得た。「松本(裕樹)さんなら、ブルペンではあんまり力を入れて投げていないんですけど、試合になったらあそこまで変わる。スイッチの入れ方も勉強だなと思いましたし。杉山(一樹)さんとかもすごい球を投げていたので。シンプルに技術が高いです」。肩の作り方も人それぞれ。リリーフとして経験を積む左腕にとっても、2日間で見た景色は今後に大きな影響を与えるはずだ。

 小久保監督は「ああいうところでマウンドに上がれる選手になりなさいという話はしました。あの首位攻防戦でね、しっかりと空気は感じてくれたと思います」と語っていた。木村大も「2軍では圧倒した投球を見せないと、上にはいけない。もっと内容にもこだわっていきたいです」と力を込めた。地に足をつけながら、自らのレベルアップに集中していく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)