左腕が明かす心境と生活の変化
手術から5か月が過ぎた。「最近どうですか?」と聞いてみると、長谷川威展投手は、「いやぁ、やっぱり可愛いんですよね」と、“新しい家族”について嬉しそうに口を開いた。
今年3月21日にトミー・ジョン手術を受け、来シーズンの復帰を目指して懸命にリハビリに励む日々。「感情の波はありましたね。やっぱり肘の状態にも比例するので」。ネットスローを再開した時は「人生のBメロが始まった」と語っていたが「どんな感じで言いましたっけ(笑)。まだサビには入っていないです」と、左腕らしい独特な表現は健在だ。
一進一退の地道なリハビリ生活を送る中、支えとなっている存在を明かしてくれた。「僕、猫飼い始めました」――。
きっかけをくれた先輩右腕
きっかけは、犬2匹と猫1匹を飼う又吉克樹投手の自宅を訪れたことだった。「好きなんですよ。ずっと構ってほしいわけじゃなくて、気分屋なところもいいじゃないですか」と、もともと猫好きだった長谷川。埼玉の実家でも「マリ」と名付けた黒猫を飼っていただけに、すぐに気持ちに火がついた。
8月上旬、ペットショップに足を運ぶと、「2匹抱っこさせてもらったんですけど、もう直感で。こっちだなって思ってすぐに決めました」。即決で家族に迎えたのは、オスのミヌエットだった。
授けた名前は「靭」。
「靭帯の“靭”です。トミー・ジョンの“ジョン”とかも考えたんですけどね」と大真面目に由来を打ち明けた。
「これから何年も一緒に暮らしていくわけじゃないですか。僕のこれからの道のりも、寂しさも、一番隣で見てくれる猫になりますから。『なんで靭にしたんだっけ』って思った時に、『手術を受けたのはあの時だ』って思い出せるように。そんな理由です」
もともと「じん」という響きで考えていたが、意味を込めるうちにどんどん愛着が湧いてきた。漢字の意味を調べると「『しなやかで強い』だそうです。字もカッコいいと思ったので、これでいこうと決めました。『靭くん』って呼んでいます」。これからの野球人生をともに歩む“宿命”を、その名に託した。
生活の中心になった“靭”
“靭”との暮らしが始まると、生活は一変した。室内は常に26度に保ち「それより低いとくしゃみをするんです。動物病院で働いている知り合いに聞いて、ベストな温度を探しました」と、空調はフル稼働だ。
普段はチームのムードメーカーだが、猫とたわむれる姿は想像しにくい。「『よしよしよし〜(裏声)』って感じではないですね。『可愛いな』くらいです。でも噛んだりしてきたら『おい!』って言いますよ」と、顔をほころばせる。
「責任感が芽生えますよ。会いたくなるので、家に帰りたいなって思うようになります」。単調になりがちなリハビリの日々に、大きな刺激をくれた「靭くん」。その存在こそが、今の長谷川威展が前を向く理由になっている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)