前田悠伍が知った1軍ブルペン「レベルが違う」 勝ち越し直後…目の当たりにした“変化”

ガッツポーズして雄叫びを上げる上沢直之(左)、前田悠伍【写真:古川剛伊】
ガッツポーズして雄叫びを上げる上沢直之(左)、前田悠伍【写真:古川剛伊】

第二先発で知った先輩投手が醸し出す空気

 ブルペンで醸し出される独特の雰囲気に、若き左腕は大きな学びを得ていた。20日の西武戦(みずほPayPayドーム)、先発のマウンドには上がったのは上沢直之投手だった。同点で迎えた7回、安打と連続四球で1死満塁。一打出れば勝ち越しを許すピンチに、球場の雰囲気は張り詰めていた。しかし、ここからが右腕の真骨頂だった。後続を2者連続三振に斬ってとると、感情を爆発させたガッツポーズ。球場は大歓声に包まれた。

 ファンの視線がマウンドに注がれる中、ブルペンでは全く別の時間が流れていた。この日、「第2先発」の役割を担い、万が一に備えていた高卒2年目の前田悠伍投手。終盤に差し掛かり役目を終えた左腕の目には、歓声とは対照的に静かに次の回への準備を始める先輩たちの姿が映っていた。

 8回に登板した松本裕樹投手、そして9回を締めた杉山一樹投手。7回にチームが勝ち越しても、気にすることなく冷静に肩を作っていたという。前田悠がこれまで知ることがなかった1軍ブルペンの雰囲気。首位を走るチームを支えてきた中継ぎ陣がまとう空気をどう感じていたのか。

ブルペンでも起こった拍手…

「いやぁ……。すごいですね。急にパッと切り替わるんで。空気というか、ムードが急に変わるので、そのメリハリの凄さを感じます」

 前田悠がそう語るように、ブルペンの空気は一瞬にして変化した。7回、上沢がピンチを脱した直後までは、チームの一体感を象徴するような熱気がブルペンにもあった。「みんな盛り上がっていました。ピンチを抑えて、みんな拍手とかして。『ナイスピー』みたいなことも言って」。仲間を称え、誰もが喜びを分かち合っていた。その直後に中村晃外野手の代打タイムリーで勝ち越すと、雰囲気は一変したという。

「冷静で落ち着いているというか、堂々としている印象です。『あ、来たな』みたいな感じで、ただ自分のやるべきことを始めるという感じでした」。淡々と準備に入る松本裕らの様子を、前田悠は静かに見ていた。自身も落ち着いているタイプだと認めるが、先輩たちのそれは「レベルが違う」と舌を巻く。

「自分のマックスの落ち着きと、松本さんたちの落ち着きは全然違うと思います。落ち着きのレベルもそうですし、切り替えのレベルも違う。色んな経験をされている方なので、その経験値は大きいと感じました」

“独特な雰囲気″の正体

 ブルペンは集中する投手に気を遣い、互いの距離感を大事にする繊細な空間でもある。その中で見せる落ち着きと切り替えの早さ。それが若き左腕が感じた″独特な雰囲気″の正体だった。修羅場を乗り越えてきたからこそ身につく、揺るぎない自信と経験。それが前田悠がこれまでに感じたことのない空気感を生み出していた。

「やっぱり経験は大事だなって」。そう語る20歳の言葉には、新たな発見を実感する思いがこもっていた。1軍に帯同し続ける現状を、成長の糧として捉えている証だろう。肌で感じるすべての経験が、マウンドに立つことと同じように、左腕を成長させる。

(飯田航平 / Kohei Iida)