「耐えの毎日」野村勇が漏らした本音 1軍復帰の朝、今宮から授かった“褒め言葉”

ゴロを処理する野村勇【写真:古川剛伊】
ゴロを処理する野村勇【写真:古川剛伊】

今宮健太の1軍昇格「やっぱり締まりますね」

 尊敬する師匠でもあり、またライバルでもある先輩が戻ってきても、スタメンの座は譲らなかった。交わした会話は短くとも、授かった“褒め言葉”は嬉しかった。「やっぱり締まりますね」。そう語ったのは、野村勇内野手だ。

 19日の西武戦(みずほPayPayドーム)、左脇腹を痛めていた今宮健太内野手が2か月ぶりに1軍の舞台に帰ってきた。「7番・遊撃」で即スタメン起用された背番号6は、ゲームセットの瞬間までグラウンドに立っていた。野村は「9番・三塁」で3打数1安打。得点に絡む活躍を見せ、チームの勝利に貢献した。

 野村はここまで92試合に出場して打率.271、11本塁打、29打点、14盗塁をマーク。主に遊撃と三塁で出番を掴み、打撃部門で軒並みキャリアハイの成績を残してきた。小久保裕紀監督が「主力が戻ってきても簡単に明け渡さない、そこまでの選手になってきた」と口にするほどの成長を遂げ、今宮不在の中でもチームを支えてきた。自主トレをともにした先輩が復帰したこの日の朝、ウエートトレーニング場で顔を合わせた。

守備面でも「耐えている」を実感した瞬間が

「そこでは軽く挨拶をしただけだったんですけど。グラウンドに出てからは『頑張っているな』と声をかけられたので、『耐えています』って。そんな感じで話はしました」

 現状を表すようなやりとりだった。リーグ戦も109試合を消化し、終盤に差し掛かっている中でも結果を出し続けている。それでも野村は言い切った。「全然余裕はないです。毎試合どう耐えるか。1日打てなかったら、次の日もキツくなると思うので。ずっと勝負って感じです」。激しい競争に打ち勝ち、ここまで生き残ってきた。そんな姿を見てきたからこそ、今宮は「頑張っている」と率直な思いを口にした。

 守備面でも「耐えています」と連呼した。最大の持ち味である強肩を生かして、1つ1つのアウトを重ねてきた。「僕はそんなに捕ってからが早いタイプではない。肩でカバーしている感じなので」。思い出したのは17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。0-0の6回1死一塁、三塁を守る自身のもとに打球が飛んできた。正面に入ると、丁寧に二塁へと送球。併殺打を完成させ、先発のリバン・モイネロ投手を救った。「あれも危なかったです。よかったぁ……」と安堵した表情で振り返った。

大関友久に声をかける今宮健太【写真:古川剛伊】
大関友久に声をかける今宮健太【写真:古川剛伊】

本多コーチがキーマンに指名…注目した具体的な点

 何度も試練を乗り越えながら、たくましくなった。栗原陵矢内野手の1軍復帰が見えてきた中でも、小久保監督は野村について「(入れ替えの)対象にはならない」と明言していた。そんな28歳に誰よりも注目していたのが本多雄一内野守備走塁コーチだ。後半戦に突入する前のオールスター休み。「僕の中では勇にスポットを当てています」と明かしていた。

 投手がピンチを迎えれば、野手が声をかけにいく。その姿が特に目立っていたのは牧原大成内野手だった。本多コーチは「彼らにとって、もうそれは『普通』なので。当たり前ができるのは素晴らしいんですけど、僕は美化しないですよ」ときっぱり。主力だからこそ高いハードルを求めている。そして「勇がそういうところを見ているかどうかですよね」と言葉を続けた。

「まだ勇は(マウンドに)行くタイミングがわからないんじゃないかなと。近くまでは行くんですけど、そばにまでは行かないんですよ。こうして試合で使われるのも初めての経験。試合に出ることに一生懸命だと思うし、そんなすぐにできることではないので。いつ気が付くかな、ということですよね。自分で感じてもらわないといけないと思っていますよ」

 野村自身も自覚はしている。「すごいですよね。(他の選手は)どんな声かけているんやろって思います」。チームの戦力になれるよう、毎日を必死に過ごしているところだ。今宮が復帰したこの日にスタメン起用されたのも、首脳陣からの信頼を積み上げてきた最大の証。「これからも耐えていきます。耐えの毎日です」。冗談っぽく笑った表情に、野村の“本音”が込められていた気がした。

(竹村岳 / Gaku Takemura)