室内練習場に姿を見せ「この時間にやるのが好き」
8月13日、午後9時の出来事だった。誰もいないはずの室内練習場に人影があった。遠目からでもサウスポーであることはすぐにわかる。目を凝らすと、Tシャツの袖に書いてあったのは41番。1人で投球フォームをチェックしていたのは、前田悠伍投手だった。「お化けじゃないですよ(笑)。ちゃんと人間です」。爽やかに汗を拭った。
この日行われたウエスタン・くふうハヤテ戦は午後5時にプレーボール。3時間12分の試合を終えると、空はすっかり暗くなっていた。翌日はデーゲームなだけに、選手たちは足早に球場を後にする。特打に励んだのも数人だけだった。
ゲームセット後、若鷹は首脳陣とともにミーティングを行う。2軍の選手たちが向かうよりも一足早く室内練習場に行くと、すでに練習していたのが前田悠だった。1軍管轄の左腕にとって、自主練習と言える時間帯。「この時間にやるのが好きなんですよね」と、理由を口にした。
照れ笑いで明かした自身のスケジュールとは
「なんか新しい感覚を見つけた時とか、調子が悪い時はこの時間でもやるようにしています。午前中の感触がよくても、次の日になったらそれが違っていることもあるじゃないですか。朝にやったことがちゃんと体に染み込んでいるか。反復して確認することが目的です」
左腕にとって、この日は残留練習。午前中から練習を始めて、ライブBPにも臨んだ。「ストレッチとか自分のやることをやって、そこから(午後)7時とかまで寝ていたんですけどね」。スケジュールを照れ笑いで明かす。休憩を挟み、ジャージに着替えて再び室内練習場に姿を見せた。「朝の感じと、自分の頭にあるイメージをノートに書いたので。じゃあ今やってみて、どう感じるか。午前と午後で何が違うのか、ズレがないように」と具体的に続けた。
高卒2年目の左腕は今、若鷹寮で生活をしている。自由に施設を使うことはできるが「(1軍管轄だと)別に外出していてもいいですし、門限までに帰ってきていればいいんですけど。やることもそんなにないじゃないですか」。朝6時に起床して、ウエートトレーニングから始まるのが毎日のルーティンだ。1日の時間をフルに使って、成長を遂げようとしている。
日本ハムの試合前に“おかわり”で練習
体に染み込ませたい感覚が閃いたばかりだった。10日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)、試合前の出来事だ。
「練習が終わった後にもう1回、自分で練習したんですよ。どういうメニューをすればいいのかなって考えていたら、ちょうどバランスボールあって。『あ、これかも』『いける』みたいな、閃きました。(具体的に意識しているのは)股関節ですね。上半身と下半身が連動するように、どうしたらいいのかなって考えているところでした」
大阪桐蔭高で寮生活は経験している。午後9時は、全体練習が終わる時間帯だったそうだ。「そこからまだご飯とかお風呂があったので、あんまり時間はなかった感覚ですね」。ノートを書く習慣も高校時代からあったものだが「まとめようとしても、もうしんどかったので。それこそ書かない日もあったくらいです。今は時間もあって、よりやることが明確になっている。書いておくことが自分のためにもなるので」。身に起こる些細な変化を見逃さないため。文字にして残す自身の毎日は、貴重な財産ばかりだ。
午後9時までの自主練習を終えた後、自分が使った道具だけではなく、転がっていたボールまでかごに戻して片づけていた。「今からお風呂に入って、もう1回ノートを書いて、寝ます。お疲れ様でした」。ストイックな生活は、全て自分のため。前田悠伍の一日は長い。
(竹村岳 / Gaku Takemura)