中村晃が抱きしめた…“新鮮”だった歓喜の輪 牧原大成のために我慢した直前の1球

サヨナラ打を放った牧原大成と抱き合う中村晃【写真:古川剛伊】
サヨナラ打を放った牧原大成と抱き合う中村晃【写真:古川剛伊】

今宮&栗原が復帰間近も「明け渡す気はない」

 一番に抱きしめてくれたのは、特別な存在である“盟友”だった。サヨナラ打を放った牧原大成内野手に、中村晃外野手が駆け寄る。歓喜の輪の中心で2人の笑顔が弾けた。

 17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)、スコアは動かないまま試合が進んだ。9回1死二塁のチャンスで中村が四球を選ぶと、牧原大に勝利のバトンは託された。「最初は『晃さん頼むから打ってくれ』と思いながら見ていたんですけど、つないでくれたので。なんとか決めようという気持ちで打つことができました」。一塁線を破るサヨナラ打を放ったヒーローは心地よさそうに汗をぬぐった。

 8月に入って調子をグンと上げている32歳は、この日6番での起用となった。勝利の興奮が残った試合終了直後に、胸中を打ち明けた。「もう本当に、必死にやっているだけです。今宮(健太)さん、栗原(陵矢)が戻ってきますけど、明け渡す気はさらさらない。そういう気持ちでやっていることが、結果になっているのかなと思います」。熱い気持ちは絶対に衰えない。そんな背番号8だからこそ、重圧のかかる場面でチームを歓喜に導くことができた。喜びの瞬間に中村が“一番乗り”したのは、単純な理由だった。

サヨナラ勝利の裏側…四球を奪った選球眼

「僕が一番近かったからじゃないですか。あんまり(歓喜の輪に飛び込むことは)やったことがなかったので。ちょっと新鮮でした」。ヒーローを抱きしめた中村は、照れ笑いとともに振り返る。「野球の話もよくしますし、毎日キャッチボールも一緒にしている。仲はいいと思いますよ」と、勝利の余韻を静かに噛み締めた。

 中村が打席に向かったのは1死二塁という状況。カウント3-1からの5球目を見逃し、四球を勝ち取った。チャンスになるほど積極的なアプローチを心がける35歳だが「後ろにマッキーと(野村)勇がいる。今2人とも調子がいいので」。後ろに控える後輩を信じて、ラストボールをしっかりと見極めた。牧原大も「緊張は全然しなかったですね。あんまり意識せず、いつも通りいきました」。自然体となって振り抜いた一打。つないでつないで、全員で奪った白星だ。

4月17日の楽天戦で3ランを放った中村晃とハイタッチする牧原大成【写真:荒川祐史】
4月17日の楽天戦で3ランを放った中村晃とハイタッチする牧原大成【写真:荒川祐史】

 今季も残すは残り36試合。春先には柳田悠岐外野手、近藤健介外野手らが離脱し、苦しいスタートを強いられた。そんな中で登録抹消されることなく1軍で戦ってきた野手は5人だけ。川瀬晃内野手、野村勇内野手、海野隆司捕手、そして中村と牧原大だ。

 11日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)で背番号7が代打でタイムリーを放った際には、「特別な存在です」と感謝を表現していた牧原大。中村も「マッキーも、本当に今年は調子を維持しているので。お互いにこのまま怪我なくいけたらと思います。怪我してしまうのが、やっぱり一番マイナスなので」と応えた。ようやく首位を走り始めた8月、チームを支えてきたのはグラウンドに立ち続けてきた選手たちだ。

 今季5度目のサヨナラ勝利。そのうち2度は、牧原大が試合を決めた。「チームが勝って嬉しいです」と殊勝に振る舞う32歳。中村も「ここから最後まで、しっかりと戦えるように準備していきたいです」と意気込んだ。リーグ優勝、そして日本一という最高の瞬間で、抱きしめ合う2人が見たい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)