「悪い流れを持ってきてしまったのは実力不足」
人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。前田悠伍投手の8月編をお届けします。5日のロッテ戦(ZOZOマリン)でプロ初黒星を喫した左腕。人生初となった幕張のマウンドで、人知れず抱いていた違和感の“正体”を口にした。「ズレがあったのかもしれないです」。被弾の直後、牧原大成内野手がかけてくれた言葉とは?
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プロ3度目の登板で、初めて黒星を喫した。4回1/3を投げて5失点(自責3)。手ごたえもあったが、それ以上に悔しさが残る一戦となった。「感覚もよかったのでいけるかなと思ったんですけど、カードの頭で負けるのは絶対に良くない。自分が悪い流れを持ってきてしまったので、実力不足です。どんな時でも抑えられるように、ズレをなくさないといけない」。潔く結果を受け止め、苦い思いも深く胸に刻み込んだ。
試合を振り返ると、2回無死一、三塁から山口に3ランを許した。その後はテンポを取り戻していたようにも見えたが、5回に再びピンチを迎える。安田に適時打を浴びたところで、投手交代を告げられた。映像を見直していると、自ら抱いた違和感の正体に、すぐ気がついた。
試合中に流れるリプレー映像を見て「あれ?」
「安田さんに打たれた球は投げた瞬間に高めに浮いたと分かったんですけど、山口さんの時はいいところに投げられたと思ったんです。なんなら叩きつけにいった感覚でした。でも映像を見たら、もうほぼ真ん中ぐらいの高さで、『あれ、真ん中? こんなに高かったのか』と。自分では『いいところに決まって拾われた』と思ったんですけど、もっと低めを意識できていれば、また違っていたのかなと」
ZOZOマリンスタジアムのマウンドで投げるのは、この日が初めての経験。傾斜に違和感はなかったというが、投球後にバックスクリーンに流れる映像が感覚のズレを浮き彫りにしていた。「自分が思っているよりも変化球が落ちていなかったので、そういうところからズレはあったかもしれないです」。風速10メートル近い強風で、変化球の軌道にも“誤差”を感じていた。「途中から意識的にフォークを使ったら良くなったので、(風の)影響はあったかなと思います」。
まだまだ存在感をアピールしなければならない立場。意気込んで臨んだマウンドで、先輩の偉大さも実感した。山口に被弾した後、声をかけてくれたのが牧原大だ。「プロならこういう苦しい場面もあるし、打たれることもある。切り替えていこう」。大きな先制点を許してショックを受けていた矢先で、ロッテファンの大声援が響く中でも、その声は「しっかり(耳に)入ってきました」という。
「そう言っていただけて、気持ちをパッと切り替えられました。牧原さんは、ずっと試合に出続けている方ですし、良いことも悪いことも経験されてきたと思います。そういう方に声をかけてもらって、『うまくいくことばっかりじゃないな』と思い、すぐに次のバッターに集中できました。後続にヒットは打たれましたけど、なんとか抑えられた。あの“間”は大きかったですね」
黒星を喫した試合後…ホテルで取った行動とは
結果的に3点差で敗れ、プロ初の黒星を喫した。試合後、宿舎に戻った左腕はすぐにノートを開き、自身の投球映像を見返した。「書かないと『何だったっけ』って忘れてしまうし、その時の感情もわからなくなる。結果が良くても悪くても、すぐに反省するようにしています」。自室に一人、机に向かいペンを走らせることで、悔しさはその日のうちに整理された。「そこはもう完璧に切り替えられました。課題も明確になったので、次に向けて『やってやる』という気持ちでした」と、すでに前を向いていた。
6日に出場選手登録を抹消されたが、1軍への帯同は続いている。「もう黒星はつかないように、レベルを上げていくしかない」。次のチャンスに向かい、静かに準備を進める。この苦い経験を力に変えて、もっともっと成長していく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)