首位攻防戦も淡々「順位とかは関係ないです」
常勝軍団でたどり着いた節目だからこそ、価値がある。プロ11年目、積み上げた数字は「100」に到達した。「いろいろありましたけど、ここまでよくやれているのかなと思います」。噛み締めるように振り返ったのは松本裕樹投手だ。
1ゲーム差の2位・日本ハムとの首位攻防戦。2回に逆転すると、リードを保ったまま試合は終盤に突入した。右腕の出番は、3点差の8回。水谷、レイエス、マルティネスと並ぶ上位打線を3者凡退で退けた。「順位とかは全然、関係ないです。目の前のバッターをどう抑えるかしか考えていないので」。クールに語った背番号66。この登板で、プロ通算100ホールドを達成した。
「そういう何かを積み重ねているのは、いいことかなと思います」。試合後、淡々と振り返った右腕。口調が少しだけ熱くなったのは、自らのキャリアについて問われた時。ホークスだからこそ価値があると、29歳は胸を張った。
松本裕樹にとって「ホールド」とは?
「ポジションが固定されるところまでいくのが、まずこのチームでは大変なことなのかなと思うので。それを今、続けてこられているっていうのは本当にいいことかなと思います」
通算268試合に登板した中で、先発としてマウンドに上がったのは30試合。今でこそ必勝パターンとして固定されているが、ロングリリーフやビハインドの場面など、多様な役割をこなしてきた。100ホールド到達は一つの道を極め、自分だけの地位を築き上げた何よりの証。「中継ぎになってからも色んなポジションをやりながら、勝ちパターンというところまでこられたので。よかったかなと思います」。冷静な口調から、少し誇らしげな気持ちも伝わってきた。
プロ初ホールドを記録したのは2020年8月29日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。以降、6年間で積み上げた数字に「色々(記録がつくシチュエーションが)限定されると思うので。それを、最低100回は投げられたということ」。今はもう絶対に欠かせない存在。松本裕樹にとってホールドとは、どんな意味を持つものなのか。
「中継ぎをやるうえで、そこ(ホールド)を取れるような位置で投げるというのは、やっぱり信頼されている証。積み重ねていくにも、結果を残していかなきゃいけないので。それができてきたのかなと思いますね」
レイエスは155キロで見逃し三振「あの選択が一番…」
この日、水谷を中飛に仕留めると、レイエスと対戦した。3球で追い込んだものの、相手も粘り強くボールに食らいついてきた。「前回の対戦(7月29日)で、最後にフォークで空振りを取っていたので。その辺をケアしてきている感じはしましたね。去年から対戦することも多くなってきたので、自分の中では意識して投げていました」。リーグトップの21本塁打を放っている日本ハムの主砲。自然とボルテージは上がっていった。
迎えた8球目、155キロのストレートで見逃し三振を奪った。スタンドにまで声が聞こえてくるほど、気合を込めた渾身のラストボール。「あの選択が一番事故が少ないかなと思いました。あれで打たれたら仕方ないかなと。できることを最大限、やっていくだけですね」。相手に流れを渡さず、心地よさそうに汗を拭った。これからも必勝パターンの一枚として、チームの勝利に貢献していくつもりだ。
帰路につく際、左手で記念球を握りしめていた。「これは(勝利投手の)有原(航平)さんから『いいですか』って言って、もらいました。僕はそんな興味ないんですけどね。誰かしら、欲しいかなと思って」。いつも支えてくれる人たちは、心から喜んでくれるはず。松本裕樹の“信頼”が詰まった大切な一球だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)