7月30日の日本ハム戦…リードを守れずに2敗目を喫した
1球にかける男が見せたのは、あまりにも悲痛な表情だった。思い出したのは、3年前の“悪夢”。「必ず優勝して、その輪の中に喜んで入っていきたい」と決意を新たにしたのが藤井皓哉投手だ。
7月29日から始まった日本ハムとの3連戦(エスコンフィールド)。2勝1敗と勝ち越し、首位となって福岡に戻ってきた。最後のアウトを奪うまで手に汗を握った首位攻防戦。痛恨の失点を喫したのは30日の8回だった。逆転に成功した直後に登板したが、清宮に2点三塁打を浴びてひっくり返された。
32球を投じ、3つ目のアウトを奪えずに交代を告げられた。テレビカメラに映されていたのは、右腕がベンチに座り込む姿。口元を押さえて、目線を落としていた中でどんな感情を抱いていたのか。少し時間が経ったからこそ、打ち明けることができた。
「そこまでの感情になることはなかなかないですけど…」
「一番は、申し訳ない気持ちですね。その前の回に、万全じゃない2人(周東佑京内野手と近藤健介外野手)が打って逆転した中で、乗っていけるゲームだったと個人的にも思っていました。あそこを抑えれば、ホークスが勝てる可能性が高まると思って向かったマウンドだったので。悔しいっていう気持ちはありました」
ベンチに戻り、同僚から声をかけられることもなかった。「僕もそういう雰囲気じゃなかったと思いますし、話しかけてほしくないじゃないですけど……。多分、僕も入り込んでいたので」。周囲にも伝播してしまうほど、結果で応えられなかった自分を許せなかった。
思い出したのは、3年前の悪夢だった。2022年10月1日の西武戦(ベルーナドーム)。勝てばリーグ優勝という状況で、当時は相手だった山川穂高内野手にサヨナラ弾を許した。バッテリーを組んだ海野隆司捕手とともに、悔し涙を流した苦い思い出だ。北海道のマウンドで味わった思いは「感情という面でいえば、山川さんに打たれた時と近いものがありました。そこまでの感情になることはなかなかないんですけど……」。深く胸に刻まれたのは、自らの責任で歓喜を逃した経験があるからだ。
「8回の攻撃で逆転して、あの試合で勝っていれば、勝ち越しが決まった状態で3戦目を迎えられたので。色々な条件が重なってそういう感情になったのかなとも思いますし、申し訳ないなっていう気持ちはすごくありました。リリーフとして勝敗がつくのは、それなりの場面で投げているからだとは思いますけど、やっぱり黒星はつけたくない。その1敗でチームが優勝を逃したのも経験しているので。ブルペンのみんなは、そういう思いを持ってやっていると思います」
2024年もリーグ優勝したが…藤井が口にした「迷い」
球場を後にし、宿舎へと帰る道中。目にしたのはとある記事の周東佑京内野手のコメントだった。「藤井にはいつも助けてもらっている」。救われた気持ちになった。「佑京さんも、自分の状態が悪い中じゃないですか。だからまた申し訳ない気持ちになりましたけど、終わったことは取り返せない。次の登板からまたリセットして、最後まで仕事を果たしたいなと思いました」。
2022年には55登板で防御率1.12とフル回転したが、チームはあと一歩で優勝を逃した。昨シーズンはパ・リーグを制覇したものの、9月に腰痛で登録を抹消されていた。「ビールかけも参加しましたけど、行こうかすごく迷いましたし。抹消されている選手がそこにいるのは、僕は違うと思ったので」。今だから言える本音だ。福岡にきて4年目。歓喜の瞬間を、誰よりも渇望しているのが藤井皓哉だ。
「もちろん、その思いはあります。このリリーフ陣を引っ張っていきたいですし、その中で優勝するっていうのはまた価値があるのかなと思うので。2022年とはまた違う感情で今はやっている。そういう意味でも優勝して、あの輪の中心に喜んで入れるようになりたいなと思います」
2日の楽天戦では9回に登板して1回無失点。2セーブ目を挙げた。残り46試合。ここから先、さらに厳しい戦いが待っている。「最後までしっかり投げ切って、今度はビールかけがしたいです」。歓喜の美酒に酔いしれ、心から喜ぶ藤井の笑顔が見たい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)