プレーでも示したリーダーシップ
心情がわかるからこそ、かけられる“声”がある。7月30日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。敗れはしたものの、首位攻防戦にふさわしい一進一退の攻防が繰り広げられた。先制したのは日本ハム。2回の1死一、三塁で松本剛の飛球を山本恵大外野手が落球し、先制点を献上した。
「緊張感もすごかったですし、(エスコンフィールドでのプレーが)初めてだったので。大事な首位攻防戦で試合に出て、エラーをしてしまった……」。山本は悔しさをにじませながらプレーを振り返る。
そんな25歳の肩に腕を回し、声をかけたのが周東佑京内野手だった。「(3回に)同点に追いついたっていうのもあったので、話そうかなと。軽くですけどね」。選手会長が見た山本の姿とはどのようなものだったのか――。肩を抱いてまで伝えたかった言葉と、その思いに迫る。
「山ちゃんは特にそうですけど、結構気にするタイプかなと思うので。見ていても、打てなかった後に“しょんぼり”することもあるので」
山本の気持ちを軽くした言葉
周東が声をかけたのは、チームが同点に追いついた直後の攻守交代の場面だった。周東は2点を先制された直後の3回2死三塁でタイムリーを放つと、すかさず二盗に成功。ジーター・ダウンズ内野手の内野安打と悪送球の間に生還し、試合を振り出しに戻した。
「泣きそうな顔をしていたので『大丈夫かな』と思いながら。次の打席に楽な気持ちでいければいいのかなと思いました」。周東は失策した直後に見せた山本の表情に、たまらず声をかけた。
「『切り替えろ。なんとかしてやるから大丈夫』と言っていただきました」
先輩からの言葉をもらった山本の気持ちは軽くなり、冷静さを取り戻した。その後は4回の打席で右前打を放ち、意地を見せた。それはチームリーダーの気持ちが届いた瞬間でもあった。
「僕も若い時はミスをしたらあんな感じでしょんぼりしていたし、泣いた時もありました。(山本の)技術は言うことがないので。あとは試合数を重ねていけば、もっと楽に試合に臨めるのかなと思います」
肩を抱きたくなる山本の“人間性”
なぜ、ここまで寄り添うことができたのか。それは周東自らも同じ経験をしてきたからだ。5年前の2020年、試合で痛恨のエラーをしてしまい、人目もはばからずに号泣した背番号23。すぐさま励ましのメッセージを送り、静かに寄り添ったのが今宮健太内野手だった。先輩が示してくれた温かさは、今でも周東の中に深く刻まれている。
そんな今宮もかつて、同じように試合中のエラーで涙を流したこともあった。今や名手として名をはせる男たちも通ってきた道。だからこそ、山本の「泣きそうな顔」を見過ごすことはできなかった。あの日の自分が先輩に救われたように、今度は自分が後輩を救う番だと、自然に体が動いたのだろう。それは選手会長という立場だからではなく、周東にしてみれば1人の野球選手として当然の行動だった。
周東は山本の人間性を「めちゃくちゃいい子だなと思います。だけど、ちょっと優しすぎる部分もある」とも語る。「あいつがずっと頑張っていることも、練習とかで見ているので」。ひた向き野球に取り組む25歳の姿も、かつての自分と重なっていた。肩を組みたくなるのも、そんな山本の人間性があるからだと語る。
この夜の苦い経験と温かい言葉は、山本をさらに大きく、そして頼もしい選手へと成長させるはずだ。いずれ山本にもだれかのミスを救う時が来る。周東がかけた言葉には、多くの想いが込められていたに違いない。
(飯田航平 / Kohei Iida)