渡邉陸が「いい加減にしろよ」 ルーキーに送った“本気のゲキ”も…「気づいてないでしょ?」

5回、マウンドに集まった渡邉陸と安徳駿【写真:森大樹】
5回、マウンドに集まった渡邉陸と安徳駿【写真:森大樹】

お立ち台でも送ったメッセージ

「気づいてなかったんでしょ? 意味ないですね」

 笑いを交えながらも渡邉陸捕手の口から出たのは、本気の“叱咤”だった。みずほPayPayドームで行われた29日のウエスタン・くふうハヤテ戦。この日の主役は、本塁打を含む2安打4打点と大暴れした渡邉と、2番手で2回1/3を無失点に抑えて“プロ初勝利”を挙げた安徳駿投手だった。自らのバットでチームを勝利に導いた渡邉だったが、試合後のヒーローインタビューでの表情は硬いまま。ルーキー右腕の投球について問われると、「ずっと真っすぐが高めに浮いていたんで『しっかりしろよ』と思ったんですけど、抑えてくれてよかったです」と口にした。

 この言葉の裏には、熱く、厳しいメッセージが隠されていた。5回からマウンドに上がった安徳にとって、プロ入り後初となる本拠地での登板だった。「アドレナリンも出ていて、いつもより体も動きました」。強く意気込んだ一方で、その力みは制球の乱れに繋がっていた。

 代わりばなの5回、先頭に安打を浴び、続く打者にも四球を与えて無死一、二塁のピンチを招いたところで渡邉はマウンドへ向かった。「大丈夫だから、打たせていこう。楽しめよ」。そう励まされた安徳は2死を奪ったが、2番打者への4球目に背番号00が“あるアクション”を起こした。「え、バレてました?」。そう言って目を丸くする渡邉。寸前に励ました際とは明らかに違う雰囲気がそこにはあった――。

この試合マスクを被った渡邉陸【写真:森大樹】
この試合マスクを被った渡邉陸【写真:森大樹】

1球に込めた「気づけ」のメッセージ

「『そろそろいい加減にしろよ』と思って強く投げ返しました。同じような球が続いていたので、『ワンバンでいいから、低めに来いよ』というメッセージです。伝えた方がいいかなと思って、ピッといきました」

 こう語る渡邉は苦笑いを浮かべつつも、少し悔しそうに続けた。「(安徳は)気づいてなかったんでしょ? 意味ないですね。気づいていないなら、もう少し強く投げてもいいかもしれないですね」。試合中、再三にわたって身振り手振りで低めへの意識を促していた。冗談めかしてはいたが、冷静な男が1球に込めた思いは本気だった。

 この日の安徳は、初めて投げる1軍本拠地のマウンドに特別な緊張感を抱き、制球に苦しんでいた。「それどころじゃなかったかもしれないです」。必死に投球していた最中。渡邉が感じていたとおり、そのメッセージに気づくことができなかったという。

厳しさの裏にある期待と、見据える場所

 渡邉の厳しさの根底にあるのは、共に高みを目指したいという強い思いだ。「同じミスが続いているから修正しろよ、と」。それが先輩捕手としての率直な気持ちだ。奮起を促すだけではなく、自ら課題に気づき、乗り越えてほしいという期待の表れだった。

 一方の安徳も、決して自身の投球に満足していたわけではない。プロ初となるドームのマウンドに「アドレナリンも出ていた」と振り返るように、平常心を欠いていたことは自覚している。渡邉からの“メッセージ”に気づけなかったのも、目の前の打者を抑えることに必死だったからだ。

 この日のヒーローインタビューで、本塁打を放ったにもかかわらず渡邉の笑顔が少なかったのは、個人的な喜びよりも、チーム、そして後輩投手を導く責任感を強く感じていたからに他ならない。「ホームランはもちろんうれしかったです。でもやっぱり、目指すところはここじゃない」。その視線は、常に1軍の舞台を捉えていた。

 試合後の言葉も、強い返球に込めたメッセージも、すべては共に1軍の舞台で輝くための、渡邉なりの愛情表現だ。この日の“すれ違い”は、いずれ安徳にとっても忘れられないターニングポイントになるかもしれない。細やかな先輩からの思いを感じ取ることができるようになれば、新たなステージも見えてくるはずだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)