春先とは違う焦り、好調なチームに募る不安
表情には出さないが、いくつもの不安を抱えながら過ごしている。栗原陵矢内野手は右脇腹を痛め、リハビリ組で調整を続けている。「(現状は)6割くらいです」。ティー打撃やノックが行えるまでに回復。グラウンドには元気な声が響き渡り、その表情は明るくも見える。
今季のホークスは開幕から苦戦を強いられてきた。主力の相次ぐ故障や不調なども影響し、一時は最下位に沈んだ。栗原自身も、3月11日の巨人とのオープン戦(長崎)で脇腹を負傷し、開幕スタメンの座を逃した。4月17日に1軍へ復帰する直前には、「焦っています」とチームの状況や、自身のふがいなさを口にしていた。しかし、ホークスが好調の今、離脱で抱く感情は、春先とは異なるものだった――。
「戻った時にチームのあの輪の中にというか、“戦力になれるのか”という不安があります。今はピッチャーも野手も、いい勝ち方ができていて、いい戦いができている。見ていて『いいな』と思うので。その中に入っていけるように……」
結果が全ての世界で問う、自身の存在価値
前半戦を終え、チームは首位の日本ハムと2ゲーム差の2位につけている。快進撃を続けるナインを頼もしく思う一方で、背番号24は自身の立ち位置について考えさせられた。
「技術云々はもう何でもよくて。どれだけ打てなくても、大事な場面で打てる選手だとか。とにかく結果を出せる、残せる選手が今1軍にいるメンバーだと思います」
栗原がこれほどまでに強調する背景には、自身の離脱後にチームを支えてきた選手の存在があるからだ。野村勇内野手は、打率.264、9本塁打を記録。ジーター・ダウンズ内野手も、勝負強い打撃が印象に残る。そんな姿を何度も目にするたびに、春先の離脱とは違う不安が栗原を包みこんでいく。
笑顔の裏の葛藤、本当の「戦力」になるために
「今年やってきた成績を見ても、今僕が復帰して1軍で出られるかって言われたら、その立場にいる成績ではないと思います。そういったところを考えながら過ごしています」
客観的な視点が、不安の大きさを物語る。今季の栗原は53試合の出場で打率.214、5本塁打。不本意な成績であることは、誰よりも本人が重く受け止めている。1軍に戻ったところで、自分の居場所はあるのか――。そんな思いに駆られながらも、痛みに耐え、復帰への道を歩む。「戻った時には最後まで戦える体をしっかり作ろうと思っています」と、目の前のトレーニングに全力を注いでいる。
「ムードメーカーとか誰でもできると思うんで」。自分自身に求めるものは、明るさや声ではない。チームが勝ち進む中で、必要なことが、より鮮明になった。笑顔の裏に隠された苦悩と葛藤。「戦力」として戻るために、栗原は見えない不安と闘い続けている。
(飯田航平 / Kohei Iida)