忘れられない逆転3ラン「また打ちたいなって」
満面の笑みでダイアモンドを駆け抜けた。15日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)、1点を追う3回に飛び出した逆転3ラン。チームを勝利に導き、ヒーローとなったのが山本恵大外野手だ。忘れることができないプロ初本塁打。25歳の野球人生にとって大きな意味を持つ一発となった。
「すごかったです。鳥肌が立つというか。あんな応援されたことがないので、また打ちたいなっていう気持ちになりました」
興奮気味に語る山本だったが、ちょうど1年前の昨年7月には腰を負傷し、リハビリ組での調整を余儀なくされていた。同じ時期に故障していた柳田悠岐外野手と並んでウォーキングすることもあったが、この日の晴れやかな笑顔とは対照的に、表情は暗かった。「クビだと思っていました」。育成選手だった当時、まさに崖っぷちだった。這い上がってきた男は、初本塁打に何を思うのか――。
「7月に腰を痛めた時点で『まずいな』と。大卒3年目で怪我をして『終わったな』という気持ちでした。今こうなっていることがすごいと感じています」。山本は当時の心境を率直に明かした。周囲の選手たちが支配下を目指してアピールを続ける中、自身は満足な練習さえできない。焦りと不安ばかりが募っていた。
支えになった柳田悠岐との“何気ない会話”
そんな苦しいリハビリ期間を乗り越える支えとなったのが、先輩たちの存在だ。柳田とはグラウンドを歩きながら会話をした。「『何の筋トレしてるの?』って聞かれたりとか。野球の話はほとんどしてなかったんですけど……」と山本は笑うが、ともに復帰を目標にする存在がそばにいたことが励みとなった。「特別なことを言われたわけではないですが、仲良くさせていただいたのは嬉しかったです。すごくいい経験でした」。
怪我から復帰し、2軍戦に帯同するようになってからは牧原大成内野手と会食する機会もあった。1軍で活躍する先輩たちからのアドバイスや考えに触れた時間は、今も貴重な財産となっている。
昨年は2軍で打率1割台…何よりうれしかった“逆方向弾”
「去年2軍にいて、打率が1割ちょっとしかなかったので。だからこそ今、1軍の舞台でホームランを打てていることがすごいというか。何が起こるかわからないな、と思います」
苦しい期間を乗り越えて掴んだ支配下と、待望のプロ初本塁打。25歳が磨いてきたのは、長所でもある逆方向への強い打球だ。「ずっとやってきたことなので。1軍での最初のホームランが“それで”すごく良かったです」。第1号が引っ張りの打球ではなく、代名詞ともいえる左翼方向への一発だったことが、何よりも嬉しかった。
「逆方向へのホームランを自分の強みとして1年目からやってきました。それが1軍での初ホームランとして出たので。この4年間やってきて、すごく良かったなと思います。これからもその強みを1軍の舞台で発揮できたらと思います」
最高の形で報われた瞬間だった。「自分のスタイルが出せてきているなと、すごく感じています」。山本だけが感じることができる、価値ある本塁打だ。歩んできたこれまでの過程が確かな自信へと変わる。描いた放物線は美しく、強かった。
(飯田航平 / Kohei Iida)