2軍では5勝1敗…「進んでいる方向が合っている感じ」
気心知れた関係だからこそ、「お世辞ではない」ことはすぐにわかった。“師匠”との久々の再会。1軍昇格を目指す板東湧梧投手にとって「一番嬉しかった」という出来事があった。
開幕1軍を掴むことができなかったプロ7年目の今シーズン。ウエスタン・リーグでは14試合に登板して5勝1敗、防御率2.64と安定した成績を残している。今月5日の中日戦(タマスタ筑後)では3回2失点ながらも、今季最速となる146キロを計測。「感覚は良くなっているし、出力も上がってきたのはいいことです」と前向きに話した。13日の広島戦(同)では先発で4回無失点とアピールを続け、1軍から声がかかるのを待っている状況だ。
広島戦に向けて、ブルペン投球を行ったのが11日。この時、筑後のファーム施設を視察に訪れていた和田毅球団統括本部付アドバイザーにピッチングを見てもらった。かつて自主トレをともにした“師匠”との会話から、強く背中を押された。
和田氏が見守ったブルペン投球…背中を押された言葉
「感覚がいい中でのピッチングを見てくれて、終わった後に『良くなっている』って言ってもらえたので。それが一番嬉しかった部分ですね。見てもらう前に、『和田さんの言っている事がちょっとわかってきたかもしれないです』っていう会話をしていて、それが確かに見受けられるっていうことを言ってもらえた。結局、和田さんが言っていることに戻ってくるのかなっていうのは話はしました」
過去に和田氏と自主トレをしたことで、手にした知識は多くある。それをベースとしたうえで、今は板東なりに打開策を探しているところだ。久々に再会した先輩からの言葉。「しかも『お世辞じゃない』とも言ってもらえました」と笑顔で明かす。「R&Dの方にも力を借りながら動作解析をしているし、手応えがあった中で和田さんに見てもらえた。進んでいる方向が合っているのが嬉しかったです」。振り返る表情は、確かに明るかった。
タマスタ筑後で調整を続ける日々。「人に流されてしまうタイプ」であることを自覚する右腕は、黙々と練習する姿をよく見かける。「強く自分を保たないと、どんどん甘い方向にいっちゃう」としたうえで、あくまでも1人の時間を意図して作り出している。「やることを明確にして球場に入っているので、そういうふうに見えるのはあるかと思います」。プロ7年目を迎えた今も、JR東日本時代に言われた言葉を大切にしている。
練習から意識する「孤独であれ」…原点は社会人時代
「キャッチャーコーチとして残ってる方が、僕がいた時は現役でキャプテンをやっていたんです。その人に『ピッチャーは孤独であれ』と言われたことは、すごく印象的です。ずっと頭のどこかには残っていますね。『エースになりたかったら……』と。アップからとにかく意識するように言われていました」
マウンドに立てば、誰も助けてはくれない。5年間を過ごした社会人時代は、今の自分に確かにつながっている。「僕もそんなできているわけではないですけどね」と苦笑いするが、ピッチャーとして大切にする「孤独」が、いつか右腕を救ってくれるはずだ。
自らの課題と向き合い続け、昨年10月にはノースロー調整も試してみた。現在は、試合前日でもネットスローを繰り返すなど、とにかく投げることで方向性を見つけようとしている。「良いか悪いかは置いても、僕自身の考えとしては“フェーズ”があると思うんです。球を持っていても仕方ない時期もありますけど、僕はもうやるべきことが繋がってきている。リズムとタイミングを合わせるには、量をやっていくしかないですよね」と汗を拭った。
「わけがわからなくて投げたくないとか、そんな時期は離れた方がいいんでしょうけど。今はそんなことなくて、良い感覚が出そうですし。やっぱり僕も投げたがりなので」。そう語る表情は、これまでになくすっきりとしている。「孤独」と向き合い続ける板東湧梧の存在がきっと、1軍の戦力になってくれる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)