朝3時出発、昼はコンビニ弁当 彼女と一度も会わず…苦難の四国IL生活で3投手が得た“財産”

藤井皓哉、川口冬弥、又吉克樹【写真:古川剛伊、栗木一考、竹村岳】
藤井皓哉、川口冬弥、又吉克樹【写真:古川剛伊、栗木一考、竹村岳】

6月20日に川口冬弥が支配下登録された

 三者三様の経歴で、ホークスにやってきた。四国IL徳島から2024年育成ドラフト6位でプロ入りした川口冬弥投手は6月20日に支配下登録され、登板4試合で無失点と結果を残している。「四国IL出身」という共通点を持つ又吉克樹投手(香川)、藤井皓哉投手(高知)に当時の経験を振り返ってもらった。

 川口は東海大菅生高、城西国際大を経て社会人野球のクラブチーム・ハナマウイに入社した。2023年のドラフト会議では指名漏れを味わったが、NPB入りするという夢を諦められず、徳島インディゴソックスの入団テストを受験。新しいキャリアが始まった。「まず、四国という土地が初めてだったので。その緊張みたいなものがありました」と語る。

 試合のために、高知や香川に向かう。2時間半をかけてバスで往復した。「一人暮らしで自炊も最低限だったので。しんどかったんですけど、ご飯を食べにいったらお店の方が『頑張ってね』『また食べにおいで』って言ってくれたので。その優しさはありましたね」と背中を押された。「プロを目指す集団の中で、まずはそこで投げられないとプロには行けないと思っていました」。より高いレベルでプレーした経験は自分を成長させてくれた。

藤井皓哉【写真:古川剛伊】
藤井皓哉【写真:古川剛伊】

 藤井は2020年オフ、広島から戦力外通告を受けた。社会人チームからの誘いもあったそうだが、高知ファイティングドッグスに入団。「(先に)社会人に行けば、そこからまた独立に行くという選択はできなくなる。独立に行くなら今だと思ったんです」と理由を明かした。当時は24歳。「NPBにもし戻るのであれば、その年齢がギリギリのラインとも思っていた。そういう意味では最後1年、勝負をかけてみようと」。自身の中でも、まさに“ラストチャンス”という認識だった。

藤井は2021年に高知でプレー「大変だと思ったら、成長しない」

 長時間の移動に加え、グラウンド整備も自分たちでするなど、厳しい環境を乗り越えてきた。それでも右腕は「大変だったとかは思わないですよ」とキッパリ。這い上がった男だけが語れる深い“人生観”だった。

「しんどいということは、もう分かりきっていた。ハッキリ言って環境が悪いのは確かなんですけど、それも含めて僕は高知に行きましたし。大変だと思ってしまったら、成長しない。その環境でどう上手くなろうとするか、どう対応するかっていうのが成功する鍵かなと思います。なので、別に僕の中ではどうこうはなかったです」

 戦力外通告を味わい、泥にまみれた2021年。後に結婚する愛妻とも交際していた時期だったが「シーズン中は1回も会わなかったです」。とにかく野球に集中した1年間だった。翌2022年にホークスと育成契約を結び、今ではブルペンに欠かせない存在となっている。「今こうやって投げられているし、学んだことは非常に役に立っています。高知に行ってよかったなと思いますし、得た経験はとても大きかったです」と振り返った。

又吉克樹【写真:冨田成美】
又吉克樹【写真:冨田成美】

 香川オリーブガイナーズ出身の又吉は「一番頭を真っ白にして野球をやっていた時期かな」と言う。高校時代は内野手で無名の存在だったが、環太平洋大で身長が大きく伸びたことが、投手としての成長に繋がった。

 大学時代には教職免許を取った。卒業後は、社会人でプレーすることも選択肢にあったが「正直なんだかピンとこないところもあって『沖縄に帰ろうかな』とも考えていたんです」と、なかなか進路を決めきれずにいたという。「そしたらコーチの人から『独立に行ってみないか』と言われて。先生になるつもりだったから、いろんなことを知っておいた方がいいと思いました」。夢を諦められないというよりは、さまざまな経験を積みたいという思いがきっかけとなった。

ホークス3軍との試合のため「朝3時にバス出発」

「親父にも『1年だけ野球をやらせてくれ』って言いましたね」。熟考の末に、香川が新天地となった。2013年は、リーグ発足9年目。昼食の支給などもなく、コンビニ弁当で済ませることも珍しくなかったという。ホークス3軍と試合をするために、雁の巣までのバス移動も経験した。「出発が朝の3時とかでしたよ。今考えればすごいですけど、それでも楽しかったですね」。全力で駆け抜けたから、香川は今でも大切な土地だ。

「うどんは本当に美味しいね。安いし、(出てくるのも)早いし。よくうどん屋でご飯を食べていました。あとは、香川のメンバーがいたから、プロに入れたんやろうなと思います。人に恵まれました。みんなが全力で、『とにかくプロに』っていう人ばかり。自分がいた時は、そういう人しかいなかったので。それがすごく良かったんだと思います」

 その後、四国選抜に選出されて東京遠征に行った。「NPBの2軍や3軍、育成の子たちと試合をした。そこにスカウトの人たちが集まっていたんです」。見事に結果を残し、アピールにも成功した。自分の実力は、プロ相手にも通用するなど実感できた出来事だった。2021年オフには、独立リーグ出身選手としては史上初となるFA権を行使。ホークスのユニホームに袖を通した。「人生のターニングポイントは、あの香川の1年です」。力強く胸を張った。

(竹村岳 / Gaku Takemura)