前田悠伍が忘れない日付「今思えばショボかった」
プロの世界で活躍する――。幼稚園の頃から夢見てきた舞台で、記念すべき1勝目を手に入れた。ソフトバンクは13日、楽天戦(楽天モバイルパーク)に5-3で勝利した。今季初登板となった前田悠伍投手が6回無失点で、プロ初勝利を挙げた。10代選手の白星は、2012年の武田翔太投手以来。“鷹の希望”が詰まった左腕のキャリアを、徹底的に紐解いた。野球人生の中で訪れたターニングポイントを、独占激白した。
注目の立ち上がり。初回1死から走者を出したが、黒川を二ゴロ併殺に斬った。打線の援護をもらうと、その後も順調にアウトを積み重ねていく。最大のピンチは6回だ。無死一、二塁で村林を迎えると、左腕はマウンドで小さく笑みを浮かべた。141キロ直球で三重殺に仕留め「本当に頼もしい野手の方々ばかりなので、自分のピッチングを100%出そうと思って投げていました」と胸を張った。
大阪桐蔭高に入学し、そしてプロの世界へ――。前田悠伍が追いかけてきた2つの目標だ。テレビ画面に映る「TOIN」のユニホームに憧れたのは、幼稚園の時だった。
プロの世界に「絶対に行く」…夢が目標になった時
左腕が生まれた2005年8月、大阪桐蔭高は全国4強に進出する。2008年には浅村栄斗を擁して夏の甲子園優勝、2012年には藤浪晋太郎らを中心に春夏連覇を成し遂げた。幼少期だったものの、当時抱いた強い願望は胸に深く刻まれている。「桐蔭に行きたいと思ったのは、それこそ幼稚園くらいからです。藤浪さんたちの試合を見ていましたから。その時はただカッコいいって思っていただけなんですけど、野球を真剣にやるようになって、より具体的になっていきました」。
プロ野球選手になる。ぼんやりと抱いていた夢が目標に変わったのは、小学校6年生の時だ。NPB12球団トーナメントにおいて、オリックスのジュニアチームに選出された。「プロと同じユニホームを着たことですね。4年生とかまでは、『なりたい』っていうただの願望だったんですけど。『絶対に行く』って思うようになりました」。世代の中でもトップクラスの選手たちが集まった。思い出したのは、父・孝博さんの言葉だ。
「それまで滋賀県の中でしか野球をしたことがなかったので、自分の実力がどれくらいなのかも、わからなかった。12球団の選手たちを見て、『うわ、やっぱまだ上には上がいるな』と。ずっとお父さんから言われていたことでもあるんですけど、改めて実感して、もっと頑張ろうっていうふうになりました」
12歳にして定めた明確な目標。中学1年生になると「大阪桐蔭に行きたい」とハッキリと口にするようになった。2年の冬には、湖北ボーイズのグラウンドで、同校の西谷浩一監督とついに初対面を果たす。「そこには親もいたんですけど、特に反対はされなかったです。『ほんまに後悔ないんやな?』とは言われましたけどね。僕も『行きたい』と言い続けていたので、揺らぐことは一切なかったです」。10年以上も願ってきた“赤い糸”が結ばれた瞬間だった。
10年以上も追いかけて…中2の冬に結ばれた“赤い糸”
小中と年を重ねるごとに、憧れる気持ちは増すばかり。前田悠はなぜ、こんなにも大阪桐蔭にこだわったのか。“その先の世界”を見据えていたからだ。
「プロの選手を毎年のように輩出していて、甲子園にも出ていて、メディアにも注目されているわけじゃないですか。普通にカッコいいとか、野球といえば大阪桐蔭っていうのがあったので行きたかったですけど。そういう『いつかはプロに』っていう目も半分ぐらいはありました。いや、半分以上ですね」
青春の3年間で、3度の全国制覇を成し遂げる。進路希望調査でも「たぶん、『プロ野球選手』って。第1希望の欄しか書いていなかったと思いますよ」と、目標に向かって真っすぐに突っ走ってきた。2023年10月26日に行われたドラフト会議では、3球団が競合した末にホークスに入団。1年目から2軍で結果を出してきたが、大きな挫折を味わったのは「日付まで覚えています」という“あの日”だ。
昨年10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)ではプロ初登板。3回6失点でKOされた。「今思えば、ショボかったです。レベルが違いました」と受け止めている。オフには千賀滉大投手、今永昇太投手らと自主トレを行った。胸に刻んだ悔しさは絶対に消えない。「10本走るところを、途中でやっぱりキツいなって思うじゃないですか。やめようかなって思った時に『あかんよな。やめたらまた同じ結果になる』って言い聞かせてきた」。半年以上も自分を突き動かしてきたのは、誰よりも強い反骨精神だ。
アマチュア時代からエリート道のど真ん中を歩んできたが「光り輝いているところの方が少ないですよ。挫折もめちゃくちゃしてきました」と苦笑いする。手に入れた1勝目も、左腕にとってはまだまだ通過点だ。仙台の青空の下、力強く誓った。「ようやくプロ野球生活がスタートした一日。これからもっと勝っていけるように頑張ります。応援、よろしくお願いします!」。夢を追いかけ続ける前田悠伍には、無限の可能性が広がっている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)