失意の石塚綜一郎に寄り添った2人の存在 「引退するまで…」伝えたプロで必要なこと

走塁死した石塚綜一郎【写真:古川剛伊】
走塁死した石塚綜一郎【写真:古川剛伊】

11日の楽天戦で痛恨の走塁死を喫した石塚

 肩を落とす若鷹に寄り添ったのは、プロを知る2人だった。「引退するまで心に留めてやっていけ」。失意の底にいた石塚綜一郎捕手に、大西崇之外野守備走塁兼作戦コーチと本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチがかけた言葉は、決して慰めではなかった。この世界で長く生き残るために必要な金言だった。

 11日の楽天戦(楽天モバイルパーク)、2点を追う3回1死二塁だ。二塁走者だった石塚は定位置への中直で三塁を狙った。中堅は強肩の辰己であえなくアウトに。小久保裕紀監督は「誰が見てもそうです。無理するところじゃなかった。感性を磨いてほしいですね」「打てない時にボーンヘッドがあったら勝てない」と厳しい言葉で指摘した。

 試合後、石塚は大西コーチと話し込みながら球場を後にした。意気消沈する24歳に対して、2人のコーチが口を揃えてかけた言葉とは――。

「この世界、絶対に次の日はあるので。試合は続きますし、引きずっているのはよくないこと。ただ、反省は絶対しなきゃいけない」

 一夜が明けた12日、石塚はすっきりとした表情でグラウンドにいた。出場機会こそなかったが、“前日のプレー”を胸に秘め、戦況を見つめた。「あそこなら、ここならっていう判断を今まで以上に注意深く見ていました」。試合前、大西コーチ、本多コーチから共通して伝えられたのは、切り替えと反省。「2人とも優しくしてくれてありがたかったです。ただ、反省するところは反省するという感じですね」と感謝する。

ベンチから戦況を見守る石塚綜一郎【写真:古川剛伊】
ベンチから戦況を見守る石塚綜一郎【写真:古川剛伊】

大西コーチの言葉「1番石塚が反省せなあかんのは…」

 大西コーチも「一番石塚が反省せなあかんのは、自分の足と相手の肩を考えた時に、五分五分の勝負ができるのかどうかっていうところ」と振り返る。一方で避けたかったのは、“怖さ”を知ってしまったことで石塚が消極的になること。11日の試合後だけでなく、12日の昼食、試合前の走塁練習中にも2人で話し合った。「チャンスがあれば、次の塁に行きたいという気持ちはすごく大事やと思う。行かないやつより、ああやって行こうとしているやつの気持ちの方が俺は尊いと思う」。前向きな気持ちを失ってほしくないから、背中を押すように言葉をかけた。

 本多コーチからも「サヨナラエラーしたこともあるし、何回もやらかしたこともあるけど、もうやらなきゃいい話だから」と切り替えの大切さを伝えられた。「注意していない選手に同じプレーが起こるわけであって。これからは絶対そういうことはしないように、同じ失敗をしないように引退するまで心に留めてやっていけっていうふうに言われました」と石塚は明かす。問われていくのは、今後のプレー。授かった教えを必ず、グラウンド上で体現していく。

 2024年に支配下登録を勝ち取り、1軍出場は35試合と経験を積む日々。2人の“先輩”も失敗を経て一回りも二回りも成長した。「切り替えて同じ反省をもう1回しないように。この世界ではやっぱりそういうところが大事なのかなと思います」。この経験を糧に、もう一度前へ進む。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)