リリーフ投手のためにプレートを綺麗に…
何かが変わるわけではないかもしれない。それでも祈りを込めながら、投手を迎え入れている。6年目のシーズンを過ごしている海野隆司捕手。捕手陣では唯一、開幕から1軍出場を続けている27歳は、様々な投手とコミュニケーションを取ってきた。
8日のオリックス戦(京セラドーム)では有原航平投手とバッテリーを組み、7回1失点の好投をサポートした。初回の1球目から変化球を選択するなど、慎重にリードしているような印象を受けた。「もともと真っすぐばかりで押すタイプでもないと思いますし、それは有原さん自身もわかっていると思う。自分も最近、受けていてそう思うので」。走者を背負いながらも最少失点にまとめ上げたのは、豊富な球種を交えたコンビネーションが光ったからだ。
捕手としての“優しさ”が見えたシーンがあった。8回、2番手のダーウィンゾン・ヘルナンデス投手がマウンドに上がる直前の場面。海野は駆け足でマウンドに向かうと、中心で座り込んだ。「フー」とプレートに息をかけて、土を払う--。この行動にはどんな意味があるのか。照れ笑いとともに明かした。
高谷コーチも成長を評価「落ち着いてきている」部分とは?
「ちょっとした気遣いじゃないですけど、なるべくいい状態で(マウンドに)立ってほしいっていう。それで何かが変わるわけではないんですけどね。そういうところから運が下りてきたらいいなって。常に『投手のために』っていうのを考えているので。そんな感じです」
昨シーズンから始めたというルーティン。高谷裕亮バッテリーコーチも「今までができていなかったわけではないんですけど、そういう目配りや気配りができるようになってきた」と、献身的な姿勢を見守っている。細かな“気づき”は、勝負の中でも必ず生きてくる。「そういうことができることで、試合中のジェスチャーがもっと丁寧になったりするじゃないですか。(細部への)意識が回っていると思うし、落ち着きが出てきている」と、確かな成長を評価した。
この日のオリックス戦では、有原とともにチームを勝利に導いた。今季は開幕から苦しんでいた右腕だが、今季14度目の登板で6勝5敗。初めて白星が先行する形となった。一時は黒星が続き、声をかけづらい瞬間が「確かにありました」と、海野も認めていた。コミュニケーションを取りながら「有原さんが考えていることとか、何を投げたいとかは徐々にわかるようになってきたのかなと思います」。コンビを組む度に、会話が“深く”なっているところだ。
「僕が後輩ですけど、言いたいことはちゃんと言わないとバッテリーとして成り立たない。あれだけの投手なので、僕が言わなくてもわかっているとは思うんですけど。思っていることは伝えるようにしています」。NPB通算90勝を誇る右腕。心からリスペクトを抱きつつも、時には自分からも有原の心に踏み込めるようになってきた。
感じる重圧「勝って当たり前と思われるかも」
海野自身も白星を重ねながら、自信を手にしている。6月10日の巨人戦(みずほPayPayドーム)以降、スタメンマスクを被った直近11試合で9勝2敗。主に有原、リバン・モイネロ投手とバッテリーを組んでいるだけに当然、重圧も背負っている。「あのピッチャー2人と組むので。周りからしたら勝って当たり前と思われるかもしれない」。そのうえで27歳は「勝てていますからね。『先に点をやらない』だとか、自分の中でも意識していることはあります」と胸を張った。
高谷コーチが「勝って当たり前という投手とも組みながら。チームの勝利もそうですけど、カード頭でやるべきことをやってくれています」と言えば、海野は「その日その日で、できることをやっていきます」と足元を見つめた。言動の1つ1つは、投手のため--。チームが勝ち続けることで、細やかな気遣いが報われてほしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)