「来るんじゃなかったんですか」 松本裕樹が小久保監督に求めたもの…“無言”で交わす信頼

小久保裕紀監督(左)と松本裕樹【写真:冨田成美】
小久保裕紀監督(左)と松本裕樹【写真:冨田成美】

鷹フルが単独インタビュー…2月を振り返り「S組と言ってもほぼリハビリでした」

 鷹フルは、松本裕樹投手の単独インタビューを行いました。右肩の現状、キャンプ中の取り組み、小久保裕紀監督との会話……。内容が多岐に渡った第1弾をお届けいたします。右腕らしい“無言のコミュニケーション”。ブルペンに見えた信頼に、深く迫っていきます。

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 春季キャンプは、2月24日に打ち上げを迎えた。S組に選出され、独自の調整を続けてきた右腕は「S組と言っても、ほぼリハビリ組ですからね。治すことが最優先でした」と静かに振り返る。最後の実戦登板は、昨年9月4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。右肩痛を発症し、リハビリ組に移行した。オフ期間も含め「ほぼ、僕の場合はやることは変わらなかった。去年も似たような感じで割と任されていたので、やりやすい環境は作っていただきました」と、少しずつステップを踏んできた。

「オフだったので、開幕に合わせて立ち上げているところ。そんな急ピッチで進めていたわけでもないですし、じっくり治す時間は取れたのかなと思います」

 口調は冷静だが、プロセスはまさに順調そのものだった。キャンプインを迎える前、1月のファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」でブルペン投球を再開。宮崎に入ってから少しずつ出力も上げており「ここまでプラン通りですね。回数も入って、登板を回避することもなく、徐々に出力も上げることができているので」。ペースを上げるわけでもなく、状態が後退することもない。表情から充実感がにじむのが、何よりの証だ。

 第5クール4日目となった23日。松本裕がブルペンで捕手を座らせると、時間を測っていたかのように小久保裕紀監督が姿を見せた。右腕が帽子を取りペコっと頭を下げると、指揮官も右手を挙げて応えていた。スライダー、フォーク、カーブ、カットボールなども交えて30球以上。「これくらいの投球ができて、バッターと対戦ができると思う。そこまでの状態には来られてよかった」と手ごたえを口にすると、最後は2人で言葉も交わしていた。「体の状態も含めて、今までで一番よかったみたい」と、小久保監督が内容を明かす。

 常に「野球はピッチャー」と語り、キャンプ中も投手陣の様子を見ることに時間をかけてきた指揮官。そんな中、松本裕が投球練習する時は、意図的にブルペンを訪れてきた。きっかけとなったのが、宮崎では初めてのブルペン投球となった2月3日。きっかけは小久保監督が視察に訪れなかったことだった。右腕がその中身を明かす。

松本裕樹【写真:冨田成美】
松本裕樹【写真:冨田成美】

「監督が来られなくて、マネジャーの方に話をして、『来るんじゃなかったんですか』っていう確認をしました。立ち投げした時にそういう話があって、そこからは来ていただけるようになりましたね」

 右肩痛から復帰を目指す段階。回復している姿を見せたいのかと思えば、右腕は「そういうつもりではないんですけど」と否定する。クールな右腕らしい矜持が、そこには詰まっていた。

「言葉以外のところでのコミュニケーションですね。パフォーマンスというだけでもコミュニケーションにはなるので。その辺はいいことかなと思います」

 選手にとっても、気にかけてもらっているか、期待されているかどうかは大きなモチベーションになる。S組に選ばれたことが信頼そのもの。自覚を持って調整しているからこそ、「見ている」ということを、行動で伝えてほしかった。自分の状態は、投げる球で雄弁に語ればいい。23日のブルペンが「今までで一番よかった」という2人の共通認識は、開幕に向けた確かな道標になっていくはずだ。

 小久保監督は「登板スケジュールも決まってきている。それに沿って順調に開幕まで上がってきたら」と期待を込める。昨年は50試合に登板して2勝2敗、14セーブ、23ホールド、防御率2.89。セットアッパーに守護神、大車輪の活躍でブルペンを支えた。存在感の大きさに、周囲の期待も比例するが「自分の中でやるしかないと、それだけ思っています。毎年良い成績を残したい。重圧よりは、そっちの方が強いです」と静かに話した。決して背伸びはしない。プロ11年目となる2025年、冷静な口調がどこまでも頼もしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)