米経営者に学んだルーティン 「脳の容量を使わない」…松本晴の驚くべき思考

ブルペンで投球を見つめる松本晴(左)【写真:冨田成美】
ブルペンで投球を見つめる松本晴(左)【写真:冨田成美】

開幕ローテ争いの真っ只中でも驚くべき視野「興味本位ですよ」

 24日のA組ブルペン。木村光投手や津森宥紀投手の投球を背後から見守った小久保裕紀監督の横で、目を光らせていたのが松本晴投手だった。他の投手のピッチングを“見学”すること自体は珍しくないが、利き腕も投球スタイルも違う2人の姿をなぜ見つめていたのか。

「例えば木村光なら真っすぐに凄く角度があって、スプリットが効果的ですし。津森さんは吹き上がる球が持ち味で、そこにどういうボールを使えば生きるのかなと。(ダーウィンゾン・)ヘルナンデスも見ていたら、右バッターの外高めに吹き上がる球を練習していたり、内角だったらちょっとカット気味に投げていて。ベース盤から外れるように、絶対に中に入れないという意識も見えましたし。自分に生かせるものがないかなと。まあ、興味本位ですよね」

“興味本位”と語りながらも、その目は投手コーチのごとくつぶさに観察していた。自身は開幕ローテ争いの真っ只中。勝負に集中するあまりに周りが見えなくなってもおかしくない状況でも、常に周囲を見る目は欠かさない。松本晴は自身が成長する“ヒント”はどこにでも落ちていると話す。

「考えるって結構いいことのように思えるんですけど、脳は当然疲れるんですよね。大事な決断をする時に、脳の容量を残しておかないといけない。考える時間を減らすためのルーティンづくりもメンタルの一部なので。アメリカの大手企業の経営者が毎日同じ服を着たりするのは、大事な決断をする時に考えるエネルギーを残すためらしいんですよ。毎日『これを着ようかな』って考えるのでさえも、疲れるので。1日の流れが一貫していたら、考えずに済む。そういうのも大事なことですよね」

 面白いと思えば、すぐ行動に移す。昨年中から起床してベットメーキングをする、球場入りする前にコーヒーを飲む。これらの何気ない行動を習慣化することで、脳を休めさせるようにした。「朝からコーヒーを飲むっていうのは去年から継続しているので。飲むとか飲まないとか考えることもないんですよ」。些細なことでも、続ければ意味を持つ。

 キャンプ中には“負けない助っ人右腕”から「金言」ももらった。現役時代はホークスで初登板から無傷の14連勝を記録し、今春キャンプでは臨時コーチを務めたバンデンハーク氏。1時間程度の貴重な会話の中で“勝つ力”のヒントを得たという。

「『今年の目標は』と聞かれて『110イニング投げたいです』と答えて。『そのためには何試合に投げたいんだ』と続いて『17、18試合くらいです』と。そして『平均6イニングを投げるとして、1イニング平均15球に収めるなら、どうするんだ』みたいな感じで……。もともと自分の中で最低目標を決めるっていうのはやっていたんですけど、より細かなところにフォーカスしてアタックしたほうがいいと。すごく有益な話をしてもらいました」

 23日のオリックスとのオープン戦では2回を1安打無失点と好投し、開幕ローテ入りに一歩前進した左腕。今キャンプで見せている姿に首脳陣の評価も高まるばかりだ。「自分だけに集中するっていうのも、偏り過ぎるとよくないので。遠い目標を見ながらも近くを見て。ほかの人を見ながらも自分を見てっていうバランスを大事にやっています」。迷うことなく先を見据える左腕。今後のパフォーマンスが楽しみだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)