2月中旬、お店は焼き肉だ。名前のない3人だけの“業務LINE”に正木から「(午後)5時40分で」と淡白な連絡だけがきたという。先輩2人を乗せたタクシーは、廣瀬を迎えに行き、助手席に座らせた。やはり“慶応ボーイ”たち。静かな雰囲気で、食事は進んだ。一気に空気が明るくなったのは、オリックスの渡部遼人外野手が途中参加してからだ。
渡部は1999年9月生まれで、正木とは中学&大学時代のチームメートだった。4人が集まった新しい慶応会。“末っ子”の廣瀬は「遼人さんは、子どもっぽいです。別に僕、達さんと正木さんと一緒にいてもイジられないのに、遼人さんだけがめちゃくちゃイジってきます。それを見て2人も笑っている感じでした」。後輩だって、イジられるとちょっと恥ずかしい。普通に「うるせえ」と言い返していたそうだ。
4人の中では柳町が最年長。「遼人がきた瞬間に、廣瀬が黙りました(笑)。正木と廣瀬の3人の時は話していたんですけど、遼人がきた瞬間に話さなくなりました」。苦手意識なのだろうか、気持ちは口数にも表れていた。「だから、僕と正木には心を開いているんだと思います」。後輩が自分たちを慕っていることがわかったものの、意外な形だったのだから、ちょっぴり複雑。
昨シーズン、新人とは思えないような落ち着きぶりに同僚からも驚きの声が上がっていた廣瀬。“大物キャラ”だからこそ、柳町も「皿の取り分けとか、肉を焼くのを廣瀬がしていたんですよ。それを見て『お前そんなのできるようになったのか』って言われていました」と笑って明かした。正木も「サラダを分けたりしているのを見て、遼人がそう言っていました。『成長したな』って。でも僕も言いました」という。廣瀬にとっては、想像以上に“総攻撃”だったのかもしれない。
「行っておこうか」。全員が集まる春季キャンプというタイミング、柳町が静かに手を挙げて、後輩たちを誘った。親睦を深めるのはもちろん、もう1つ目的はあった。「廣瀬がジャパンに選ばれたので、おめでとうというのも兼ねましたね」。慶大卒の“末っ子”は、「ラグザス侍ジャパンシリーズ2025」に選出され、3月5日と6日、京セラドームでオランダ代表と対戦する。プロ入りして初めて、日の丸を背負うことになった。ホークスとして、慶大のOBとして、胸を張ってプレーしてきてほしい。
支払いをしたのは、年長者の柳町だった。「これからも(慶応会が)できるように、少しずつ人数も増えるように、頑張っていきたいですね」。同じ大学出身であることは大きな理由だが、お互いの気持ちはきっと、深いもので繋がっている。