新人の育成右腕と、昨季限りで現役を退いたホークスのレジェンド。交わりがないようにも思えた2人には意外な縁があった。「『もう、ずっと好きでした』って伝えたんです」。川口冬弥投手が明かしたのは1年前の雨の日、和田毅氏との出来事だった。
昨秋の育成ドラフト6位でホークスに入団した川口は、昨季1年間を徳島インディゴソックスで過ごした。東海大菅生高、城西国際大では日の目を見ることがなかった野球人生だが、社会人クラブチームのハナマウイを経て、急成長してNPBの舞台に足を踏み入れた。
そんな川口と和田氏との出会いは昨年9月12日に筑後で行われたホークス3軍と独立L・徳島の練習試合だった。当時、和田氏はファームで調整しており、約1か月半ぶりの実戦復帰だった。
試合が一時中断するなど、悪天候の中だったが、左腕は1軍復帰へ向け必死に投げ込んでいた。投げる予定のなかった川口はスタンドから観戦。「マウンドもぐちゃぐちゃな状態なのに2回まで投げてくださって。洗練された姿を見ることができた」と目に焼き付けた。
それから1か月後の10月、ドラフト会議で育成6位指名を受け、念願のプロ入りを果たす。直後の11月には和田氏が引退を表明し、“すれ違い”となったが、川口は入寮時に念願の再会を果たした。
「室内練習場で会う機会があったので、『もうずっと好きでした』って伝えたんです。めちゃめちゃ嬉しかったです。自分からしたら、やっぱりもう憧れの人で。話したこともないような、そういう存在だったので、直接話せて感動しました」
その日、すぐに和田氏のグッズを探した。筑後のグッズショップで探していると、店員の計らいで巾着をプレゼントしてもらえた。今ではサプリケースとして遠征をともにしているという。
くしくも憧れていた存在と同じユニホームを着ることができた。目標は背番号2桁。「ホークスの一員として、これからもたくさんのことを教わろうと思います」。偉大すぎる存在が川口を突き動かしている。