球団内からも「上沢さんが1番サインを書いている」…明かした自らの流儀
球団の中からも「上沢さんが1番サインを書いている」という声が聞こえてきた。どんな気持ちを持って、ファンとの距離感を保っているのか。優しい流儀が詰まっていた。
今季からホークスに入団した上沢直之投手が、初めての春季キャンプを過ごしている。打撃投手登板までクリアするなど、順調な調整ぶりを見せている中、とにかく目立つのがファンサービスだ。練習の合間、声をかけられたらサインに応じる。時には長蛇の列ができても、最後の1人まで丁寧に筆を走らせていた。
1月31日、城島健司CBOは選手に対して「僕たちの給料は、ファンの皆さんからいただいているんだよ、と。その1点だけ言わせていただきました」と明かしていた。チーム全体で、ファンサービスのさらなる徹底が浸透してきた。その中でも、多くのサインを書いている上沢にはどんな思いがあるのか。
本人を直撃すると「わざわざ、きてもらっていますからね。僕目当てじゃないかもしれないですけど、普通に接しているだけですよ」と自然体。純粋に、ファンの記憶に何かを残したい思いが自分を突き動かしていた。「思い出に残ってくれたらそれだけでもいいかなと思いますし、サインを書いて覚えてもらえたら僕も嬉しいです。子どもにも喜んでもらえたらいいですよね」と笑顔で語る。
2011年ドラフト6位で、専大松戸高から日本ハムに入団。2度の2桁勝利を含め、通算70勝を記録した。若手時代を振り返っても「2軍にいた時からたくさんの方に見にきていただいていましたね。なるべくサインを書くようにしていましたし、きてくれたら書いてあげたいですよ」という。当時から応援し、ホークスの一員となった今もファンでいてくれる人は「いますよ。覚えています」と、上沢自身も認識していた。
2023年オフにポスティングシステムを利用し、日本ハムからメジャーリーグに挑戦した。アメリカでの日々では「自分の持ち味がわからなくなる」ほど苦しみ、日本球界復帰を決断。古巣を選択しなかったことにはファンからも「厳しい声があった」とも明かすなど、“逆風”にも正面から向き合った。右腕なりにしっかりと時間をかけて思い悩み、ホークス入団を決めた。
自分の決断に対して届いた“厳しい声”。それでも上沢は、絶対にファンの方々を疑わない。自分の力になると、心から信じているからだ。
「ネットで言われたりするのはね、面と向かって言われているわけではない。面と向かって言ってくる人もあまりいないですからね。基本的には、直接会って声をかけてくれたり、応援してくれているファンの方もいると思います。すごくありがたいです」
SNSでの書き込みは、あくまでもネット上のもの。一方で、目の前にいる人はお金と時間をかけて、ホークスを愛しているファンだ。「僕目当てじゃなくとも、実際にここまで会いにきてもらっているわけですから。足を運んでいる人には、なるべく書いてあげたいなと思います」。顔が見えるからこそ、大切にしたい。サインを書いて、写真を撮って、お互いの記憶に残したい。上沢なりの流儀が、春季キャンプの日々から十分に伝わってくる。
キャリアにおいても分岐点となった2024年。ほとんどの時間をマイナーリーグで過ごしても、アメリカにまで観戦にきたファンがいたという。「それはやっぱりすごく嬉しかったです」。見覚えのある人だったから、すぐにわかった。「ファイターズの僕が好きだという人もいると思うし、応援しているチームから、別のチームに行ったら、そこでファンじゃなくなってしまうのもそれは普通ですよね。でも僕個人を応援してくれる人もいるので、そういう人はありがたいです」。感謝を失わないから、自分を支えてくれる存在には絶対に応えたい。
「ホークスに来てくれてありがとう」。ファンサービスをする中で、そんな声も上沢には聞こえているといい「そう言ってもらえるだけで嬉しいですし、今年頑張りたいなって思いますよね」と頭を下げた。「いい人だって必ずいますから」。謙虚で誠実。そんな上沢だから、心から応援したくなる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)