支配下捕手で唯一の“筑後組” 直視した立ち位置と現実…19歳が明かす泣かないと決めた日

単独インタビューに応じる藤田悠太郎【写真:上杉あずさ】
単独インタビューに応じる藤田悠太郎【写真:上杉あずさ】

「こいつが育ったら将来どうなるのか」…期待させるためにも足元を見つめる

 鷹フルは、藤田悠太郎捕手の単独インタビューを行いました。今季が高卒2年目の19歳。春季キャンプではC組スタートとなり、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で球春を過ごしています。明かしたのは、“泣かないと決めた日”――。「A組のレベルを意識してやっている」という、日々の取り組みを語りました。

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 今春キャンプで注目されているものの1つが“正捕手争い”。昨オフに甲斐拓也捕手が巨人に移籍したことで、競争のゴングが鳴った。チームの命運を握る大事なポジションを誰が掴むのか、今から目が離せない。対照的に、筑後で人知れず汗を流しているのが藤田悠だ。現状、65人の支配下選手の中で、捕手は7人。2桁の背番号を背負いながらも、唯一“筑後組”に振り分けられ、悔しさを押し殺しながら練習を続けている。口ぶりからにじむのは、固い決意だった。

「2年目で後輩も入ってきて、去年と同じ気持ちではやっていけないと感じています。常に野球のことを考えて、朝から夜まで可能な限り野球をして、どうにか自分のものにできるように。そんな意識で過ごそうと思って、取り組んでいます」

 名前が並んでしまうが、今春キャンプの状況を整理してみる。A組には1軍経験のある海野隆司捕手、谷川原健太捕手、渡邉陸捕手に加えて、育成の盛島稜大捕手が選出された。B組には嶺井博希捕手、牧原巧汰捕手、育成の大友宗捕手と、ポテンシャルを秘めた選手がズラリといる。C組スタートとなった藤田悠は「盛島さんはA組で、大友さんもB組。上を経験したことがない人も宮崎に行っているので、自分も負けられない」と静かに闘志を燃やす。一方で、自身の現状も冷静に受け止めていた。

「でも今、自分が1軍に行ったところで、プレッシャーに押しつぶされて何もできずに帰ってくるだけだと思う。的山(哲也4軍バッテリー)コーチにも『こいつが育ったら将来どうなるのか、と思わせられるように、もっともっと出てこないといけない』と言われました。自分は必死にやっているだけだったので、もっともっと高いレベルを求めていかないと。C組のレベルで満足していたらダメなので、周りと比べず自分ができることをしっかりやっていこうと思います」

 1月26日に発表された組分け。「正直、Cだと思っていました」と冷静な分析はしていた。悔しい気持ちは当然あったが、すぐに切り替えて足元を見つめる。「それは関係なく、自分はやらないといけない立場なので」。課題は山積み。だからこそ「サポートしてくださる人たちもC組にはたくさんいるので、自分が頑張る上でいろんな人を巻き込んで、上に行けるように」。周囲の存在を頼りにしながら、自分の「覚悟」はしっかりと行動で表現している。

 ある日の自主練習。監督・コーチ、スカウトら球団スタッフ14人が藤田悠ただ1人を見守っていた。多くの視線を浴びながら、捕手練習で果敢にボールに食らいつく。終わったかと思えば、次は打撃練習だ。これもまた、10人以上が見つめる中、声を張り上げながらバットを振った。最後の1球を打ち終わると、力を振り絞って「バッティング終了でーす」と叫ぶ。力尽きていた。こんな風景は日常茶飯事。その後には1人1人にお礼を言って、ふらふらと歩きながらウエートトレーニングへと向かった。毎日がヘトヘトだ。

 正捕手争いの“蚊帳の外”だと思われがちなC組だが、まだまだ19歳。若さたっぷりの負けん気で、誰よりも熱い野望を抱く。「一気に行きたいです。C組からB組、そこからA組……とちょっとずつ上がっていくんじゃなくて、もう一気に上がっていけるくらいにならないと。正直C組でも、B組の捕手より考えてやっていけば、A組なんて狙えると思うので。C組にいても、A組のレベルを意識してやっています」。

 城島健司CBOが太鼓判を押す盛島は、藤田悠にとっては1歳年上。あえて比較をしてみても「タイプ的にも違うけど、正捕手になるっていう夢は一緒だと思います。盛島さんにないところは絶対自分にあるし、負けないところは絶対自分にも多いです」と自分だけの魅力は見失っていない。的山4軍バッテリーコーチも「(捕手陣で)一番根性はあるんじゃないかな」と認める存在。体力がある今だからこそ、できる練習は全てこなしていくつもりだ。

 1年目の昨季は、試合中に涙がこぼれたことも。負けず嫌いなことが理由の1つだが、藤田悠が泣かないと決めた瞬間がある。的山コーチも「あまりにも泣くから、『泣くな』って言ったんですよ。でも、それからは泣いていない」と目尻を下げる。「このチャンスを自分でどう捉えるか。いつでも行ってやるぞ、という気持ちじゃないと。年齢は関係ない」と続けて語った。正捕手だった甲斐も、育成時代には何度も悔し涙を流した。どれだけ思い悩んだとしても、1軍を目指す強い気持ちだけは失ってはいけない。

「自分ができることを頑張るだけ」。ひたむきに取り組み、冷静に先を見据える19歳は毎日着実に成長している。「こいつが育ったら将来どうなるのか」。そう思わせるための土台を固めている段階だ。スポットライトが注がれる舞台へ、一気に駆け上がるための準備を虎視眈々と続けている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)